突然魔法少女? 48
「なに余裕ぶっこいてんだよ。なんか策でもあるのか?」
明らかに泥酔へと向かうようなペースでラム酒の瓶を空けようとしている要。だが、アイシャはただ微笑みながらその濃紺の長い髪を軽くかきあげて入り口の扉を見つめていた。
「まあね。今この場所に入りたくてしょうがない人がもうすぐ来るでしょうから」
「はあ?なんだそりゃ?」
要の言葉を聞くと誰もが同じ思いだった。アイシャが嵯峨や吉田に次ぐ食えない人物であることは保安隊の隊員なら誰もが知っている。そんな彼女が何を繰り出そうとするのか誠は判断に迷っていた。そして彼もアイシャが見つめているドアに目をやった。
ドアが少しだけ開いている。そしてその真ん中くらいに何かが動いているのが見えた。
「なんですか?もしかして……」
そう言いながら渡辺が扉を開いた。
「よう!元気か?」
わざとらしく入ってきたのは小さい姐御ことランだった。
「なあに?中佐殿もお仲間に入りたいの?」
つっけんどんに答えるアイシャだが、ランはにんまりと笑うと後ろに続く菰田達に合図した。彼らの手には大量のピザが乗っている。さらにビールやワイン。そしていつの間にかやってきたヨハンが大量の茹でたソーセージを手に現れた。
「なんだ。アタシも配属祝いでそれなりにもてなされたからな。その礼だ」
要やカウラの目が輝く。パーラはすでに一枚のシーフードビザを自分用に確保していた。
「すみませんねえ、中佐殿。で?」
アイシャは相変わらず無愛想にランを見つめる。
「そのー、なんだ。アタシ達も仲間に入れてくれって言うか……」
その小学校低学年の体型で下を向いて恥らう姿に、『ヒンヌー教』三使徒の一人ソンが仰向けに倒れこんだ。周りの整備兵達がそれを引きずって外に出て行く、廊下で『萌えー!』と叫び続けるソン。だが隣ではもう一人の三使徒の一人ヤコブがコブシを握り締めてじっと誠をにらみつけてくる。それが明らかにカウラの隣に自然に座っている自分に向けられているのに気づいた誠は冷や汗をかきながら下を向いて目を背けた。
「なあにいつでも歓迎ですよ!コップとかは?」
「持って来てますよ!」
しなを作りながら落ち着かない誠の隣にコップを並べ始めるのはアンだったがそれを見てさらに一歩下がってしまう。
「神前先輩!一杯、僕の酒を飲んでください!」
大声で叫ぶアンだが、彼は数人を敵に回したことに気づいていなかった。
「どけ!」
そう言うとアンを張り飛ばしたのは要だった。そして誠の手のコップに珍しく自分のラム酒でなくビールを注いだ。
「これは飲めるだろ?」
満足げな表情を浮かべる要。そして誠がそのビールに目をやると、要は背後でビールを持って待機していたカウラを見つめる。明らかに失敗したと言う表情のカウラ。そして今度は要はアイシャを見つめた。
「みんな酒は行き渡ったかしら?」
あくまでも仕切ろうとするアイシャにつまらないと言った顔をする要は、必要も無いのにそれまでラッパ飲みしていたラム酒をグラスを手にしてなみなみと注いだ。
「えーと。まあどうでもいいや!とりあえず乾杯!」
アイシャのいい加減な音頭に乗って部屋中の隊員が乾杯を叫ぶ。
「まあぐっとやれよ。どうせ次がつかえてるんだろ?アンには悪いが順番と言うものがあってな」
ニヤニヤと笑いながらグラスを開けるべくビールを喉に流し込んでいる誠を見つめる要。そしてその隣にはいつの間にかビール瓶を持って次に誠に勺をしようと待ち構えるアイシャが居た。