突然魔法少女? 45
「マジですか?」
「大マジよ!」
島田の顔色が変わったのを見て誠はそちらに目を向けた。そんな彼の視線を意識しているようにわざと懐からディスクを取り出したアイシャは島田にそれを手渡した。
「なんだそれは?」
場に流されるままのカウラが島田が端末に挿入するディスクを見つめる。そのディスクのデータがすぐにモニターに表示された。数知れぬ端末のアドレスが表示される。カウラはそれを見てさらに頭を抱えた。
「それって……」
「ちょっとした魔法で手に入れた同志達の端末のアドレスよ」
何事も無いように答えるアイシャに誠は開いた口がふさがらなかった。非合法活動のにおいがぷんぷんするデータ。こういうことなら吉田の真骨頂が見れるのだが、さすがの吉田もこんなことではハッキング活動をするほど汚くは無い。
「どうやって集めた?場合によっては刑事事件モノだぞ!」
「そんなに怖い顔しないでよ。アタシのホームページのメールマガジン登録者のデータよ。これもメールマガジンの一部のサービスってことで」
誠はため息をつくしかなかった。アイシャの趣味はエロゲ攻略である。女性向けだけでなく男性向けのデータも集めたその膨大な攻略法の記されたページはその筋の人間なら一度は目にしたことがある程の人気サイトになっていた。
そしてアイシャは隠し球はそれだけではないと言うように携帯端末から電話をかける。
「今度は何をする気だ?」
カウラはそう言って誠を見つめる。
「あ、私よ。例のプロジェクトが発動したわ。情報の提供頼むわね」
そう言うとアイシャはすぐに通信を切る。
「誰にかけていた?」
「あ、小夏ちゃんよ」
カウラの問いに即答するアイシャに誠は感心するより他になかった。小夏は以前はシャムの子分格だったが、中佐で明石のあとをついで二代目保安隊副長に就任することが確定したランの登場で今では彼女の手下となっていた。
シャムは『人間皆友達』と言うおめでたいキャラである。だが、ランの名前をちらつかせてアイシャが小夏にアプローチをかけて寝返らせたと言う光景を想像しまった誠は、ただこの状況を見なかったことにしようと目の前の絵に没頭することにした。
「勝てるわね」
「まあ勝つだろうな。勝ってもまったく自慢にはならないがな」
余裕の表情を浮かべるアイシャを表情を浮かべることを忘れたと言うように見つめているカウラ。ようやく彼女はアイシャがどんな物語を作ろうとしているかと言うことに関心が向いてアイシャのキャラクターの設定資料の束をサラの隣の机から取り上げた。
「南條シャム。南條家の三人姉妹の末っ子。小学5年生」
「そうよやっぱり魔法少女は小学生じゃないと!」
カウラの言葉に胸を張るアイシャ。そんなアイシャを完全に無視してカウラはさらに読み進める。
「魔法の森の平和を守る為にやってきたグリンに選ばれて魔法少女になる……魔法の森って……」
そこでアイシャをかわいそうなものを見るような視線で眺めるカウラ。だが、そのような視線で見られることに慣れているアイシャはまったく動じる様子が無い。
「おてんばで正義感が強い元気な女の子……まあアレも女の子だな。背と胸が小さいことを気にしている」
ここまでカウラが読んだところで会議室の空気が緊張した。だが、カウラはさすがにこれに突っ込むことはしなかった。胸を気にしていると言うことを自ら認めるほどカウラは愚かではなかった。
「勉強は最悪。かなりのどじっ娘。変身魔法の呪文はグリン……グリン?ああこの絵か。魔法熊?熊ってなんだ?まあいいか、が『念じればかなうよ』と言ったのに変身呪文を創作して勝手に唱える。しかも記憶力が無いので毎回違う……まあシャムだからな」
「そうでしょ?シャムちゃんだもの」
二人のこの奇妙な会話に誠はただ笑いをこらえるのに必死だった。