突然魔法少女? 44
正直なところ誠はかなり乗っていた。
夏のコミケの追い込みの時にはアイシャから渡されるネームを見るたびにうんざりしていたが、今回はキャラクターの原案と設定が描かれたものをデザインするだけの作業で、以前フィギュアを作っていた時のように楽しく作業を続けていた。
「神前は本当に好きなんだな」
ひたすらペンを走らせる誠を呆れたように見つめるカウラ。だが、彼女も生き生きしている誠の姿が気に入ったようでテーブルの端に頬杖をついたまま誠のペンの動きを追っている。
「なるほど、これがこうなって……」
パーラとサラの端末に取り込んだ誠の絵を加工する様子を楽しそうに見ているのは楓と渡辺だった。
「やってみますか?」
そんなサラの一言に首を振る楓。
「これ、もしかして僕かな」
画面を指差して笑う楓に思わず立ち上がったカウラはそのままサラの前の画像を覗き込んだ。そこには男装の麗人といった凛々しいがどこか恐ろしくも見える女性が映し出されていた。
「役名が……カヌーバ黒太子。アイシャ。悪役が多すぎないか?」
カウラの言葉にアイシャは一瞬天井を見て考えた後、人差し指をカウラの唇に押し付けた。
「カウラちゃんこれはあれよ……凛々しい悪役の女性キャラってそれだけで萌え要素なのよ」
「そんなお前の偏った趣味なんて聞いてねえよ」
「要ちゃんはちゃんと今回出番をたくさん用意するからがんばってね」
壁に寄りかかってぶつぶつとつぶやいている要にアイシャが笑いかける。
「ケッ!つまんねえな」
そう言い残して要は出て行った。カウラは追った方がいいのかと視線をアイシャに送るが、アイシャは首を横に振った。
「島田君!そっちの宣伝活動はどうよ」
「ええ、まあ順調ですね。あちらもうちと同じでシャムさんやレベッカさんの絵を使ってキャラクターの設定を始めたみたいですけど……」
「ちょっと見せて」
アイシャはすっかりこの部屋の指揮官として動き回っている。誠はさすがに集中力が尽きてアイシャが島田の端末の画像を見て悪い笑いを浮かべるのを見ながら首を回して気分転換をしていた。
「これなら勝てるわね。シャムちゃんやレベッカの絵は女性向けっぽいところがあるから。遼北軍みたいに女性の多いところだと危なかったけど……東和軍は男性比率は80パーセント以上!逃げ切れるわよ」
勝利を確信するアイシャ。確かに彼女が『東和限定』と言う設定に持ち込んだ理由が良くわかってきた。遼北軍は70パーセント以上、外惑星のゲルパルトなどでも60パーセントは女性兵士、人工的に作られた兵士である『ラストバタリオン』で占められていた。
アイシャと運行部での彼女の部下であるサラとパーラはその『ラストバタリオン』計画の産物だった。他にもカウラや楓の部下と言うより舎弟といわれる渡辺かなめも同じように人工的にプラントで量産された人造女性兵士である。
先の大戦で作られた人造兵士達は技術的な問題から女性兵士が多く、保安隊の配属の『ラストバタリオン』の遺産達もほぼすべて女性だった。それを知り尽くしているアイシャに不敵な笑みが浮かぶ。
「でもあちらにお姉さんがついたのは痛いわね」
アイシャが独り言のようにつぶやいた。カウラと楓の顔色が変わる。
「鈴木中佐があちらに?菱川重工を押さえるつもりか?」
そんな楓の言葉に再び作業に戻ろうとした誠が視線を向けた。
「お姉さんは泣き落としに弱いからしょうがないわよ。それにあちらが軍と警察だけに限定していた範囲を広げるならこちらも攻勢をかけましょう」
アイシャは笑顔で島田の耳元に何かを囁いた。