突然魔法少女? 42
明らかにランはと惑っていた。それは誠にとっては珍しくないがランには初めて見る本気のアイシャの顔を見たからだった。明らかに気おされて落ち着かない様子で回りに助けを求めるように視線をさまよわせる。
「ちょっとクラウゼさん。見てくださいよ」
ようやくランを哀れに思ったのか、島田はそう言うと会議室の中央の立体画像モニタを起動させた。そこには5台の戦闘マシンの図が示されていた。それぞれオリジナルカラーで塗装され、すばやく変形して合体する。
「ほう、これは姐御がシャムに妥協したわね」
「妥協ねえ」
真剣にそのメカを見つめているアイシャに冷めた視線のカウラがつぶやいた。そもそも合理的な思考の持ち主であるカウラには合体の意味そのものがわからなかった。アイシャや誠の『合体・変形はロマンだ!』と言い出して保安隊の運用している05式の発売されたばかりのプラモデルの改造プランを立てる様子についていけない彼女にはまるで理解の出来ない映像だった。
「リアリズムとエンターテイメントの融合は難しいものなのよ。たとえば……」
「おい!お茶!」
演説を始めようとするアイシャの後頭部にポットをぶつける要。振り向いたアイシャだが、要はまるで知らないと言うように手を振るとテーブルにポットと急須などのお茶セットを置いた。
「とりあえず先生に入れてあげて!」
アイシャの先には首をひねりながらシャムの役の魔法少女の服装を考えている誠がいた。
「そんなに根つめるなよ。アレだろアイシャ。とりあえずキャラの画像を作ってそれで広報活動をして、その意見を反映させて本格的な設定を作るんだろ?」
そう言った要の手をアイシャは握り締めた。
「要ちゃん!あなたはやればできる子だったのね!」
そのまま号泣しそうなアイシャにくっつかれて気味悪そうな表情を浮かべる要。カウラは黙ってお茶セットで茶を入れ始めた。
「でもすげーよな。本当によく考えてるよこれ。でもまあ……アタシはもうちょっとかわいいのがいいけどな」
「違います!」
ランの言葉に要から離れたアイシャが叫んだ。突然のことに驚くラン。
「かわいいは正義。これは昔からよく言われる格言ですが、本当にそうでしょうか?かわいい萌え一辺倒の世の中。それでいいのかと私は非常に疑問です!かわいさ。これはキャラクターの個性として重要なファクターであることは間違いないです。私も認めます。ですが、すべてのキャラがかわいければよいか?その意見に私はあえてNo!!と言いたいんです!」
こぶしを振りかざし熱く語ろうとするアイシャに部屋中の隊員が『またか』と言う顔をしている。
「なんとなくお前の哲学はわかったけどよー、なんでアタシはへそ出しなんだ?」
ランが自分が書かれているアイシャ直筆の設定画を手に取っている。だが、アイシャは首を振りながらランの肩に手を伸ばし、中腰になって同じ目線で彼女を認めながらこう言った。
「これはセクシーな小悪魔と言うキャラだからですよ」
思い切りためながらつぶやいたアイシャの言葉にランは頬を赤らめた。
「……セクシーなら仕方が無いな。うん」
ランのその反応に机を叩いて笑い出す要。さすがのランも今度はただ口を尖らせてすねて見せる程度のことしかできなかった。
「あの、アイシャさん。この女性怪人、名前がローズクイーンってベタじゃないですか?」
誠がそう言いながら差し出したのは両手が刺付きの蔓になっている女性怪人の設定画だった。
「そのキャラはあえてベタで行ったのよ。その落差が良い感じなの!」
ついていけないというように自分の分のお茶をすするカウラ。要とランはとりあえず席に座ってお茶を飲みながら誠とアイシャの会話を聞くことにした。一方せっかく用意したシャム陣営の合体ロボの合体変形シーンをスルーされた島田はサラに肩を叩かれながら再び端末でネット掲示板に宣伝の書き込みをする作業を再開していた。