突然魔法少女? 41
「あの餓鬼が受けると思うのか?」
散々アイシャの書いたキャラクターの設定資料を見ながら笑っていた要が急にまじめそうな顔を作ってアイシャを見つめる。
「ええ、大丈夫だと思うわよ」
真顔で答えるアイシャを挑発するように再び腹を抱えて笑い始める要。タレ目の端から涙を流し、今にもテーブルを殴りつけそうな勢いに作業を続けていた誠も手を止める。
「あのちびさあ……見た目は確かに餓鬼だけどさ。クソ生意気で目つきが悪くて手が早くて……それでいて中身はオヤジ!あんな奴が画面に出ても画面が汚れるだけだって……」
腹を抱えて床を見ながら笑い続ける要が目の前に新しい人物の細い足を見つけて笑いを止めた。
要は静かに視線を上げていく、明らかに華奢でそれほど長くない足。だが、それも細い腰周りを考えれば当然と言えた、さらに視線を上げていく要はすぐに鋭い殺意を帯びたつり目と幼く見える顔に行き当たった。
「で、ガキで生意気で目つきが悪くて手が早くて中身がオヤジなアタシが画面に出るとどうなるか教えてくれよ」
淡々とランは要を睨みつけながらそう言った。要はそのままゆっくりと立ち上がり、膝について埃を払い、そして静かに椅子に座る。
「ああ、誠とかが仕事をしやすいようにお茶でも入れてくる人間がいるな。じゃあアタシが……」
そう言って立ち上がろうとする要の襟首をつかんで締め上げるラン。
「でけー面してるな西園寺。悪いがアタシはさらに付け加えて気がみじけーんだ。このまま往復びんた三十発とボディーブロー三十発で勘弁してやるけどいいか?」
要を締め上げるランの顔の笑みが思わずこの騒ぎを見つけた誠を恐れさせる。
「やめて!アタシは女優よ!」
「お約束のギャグを言うんじゃねーよ!」
そう言ってその場に要を引き倒したランだが、さすがにアイシャとカウラが彼女を引き剥がす。さすがにその行為はただの冗談だったようでニヤリと笑うと制服の襟を整えてランは立ち上がった。
「じゃあさっき言ってたな、茶を入れてくれるって。とっとと頼むわ」
そう倒れた要に言いつけるとランは誠の隣に座った。騒動が治まったのを知ってどたばたを観察していた隊員達もそれぞれの仕事に戻った。
「でもすげーよな」
気分を変えようとランは誠の絵に集中するさまを感動のまなざしで見つめている。誠は今度はシャムの使い魔の小さな熊のデザインを始めていた。
「こんなの誰が考えたんだ?」
そう言いながら後ろに立つアイシャに目を向けるラン。だが、ランは振り返ったことを若干後悔した。明らかに敵意を目に指を鳴らすアイシャ。強気な彼女がひるんだ様子で手にしたラフを落としてアイシャを見上げている。
「あのー……そのなんだ……」
「中佐。ここでは私は『監督』とか『先生』と呼んでいただきたいですね。それと常に私に敬意を払うことがここでのルールですわ」
「おっ……おう。そうなのか?」
言い知れぬ迫力に気おされたランが周りに助けを求めるように視線を走らせる。だが、この部屋にいる面子は先月配属になった楓と渡辺以外は夏のコミケのアイシャによる大動員に引っかかって地獄を見た面々である。彼等がランに手を貸すことなどありえないことだった。