突然魔法少女? 39
「やはり吉田さんは手が早いわね。東部軍管区はほぼ掌握されたわね。中央でがんばってみるけど……ああ、来てたの?」
「来てたの?じゃねえよ。くだらねえことで呼び出しやがって!」
あっさりとしているアイシャに毒づく要。カウラも二人の前にあるボードを見ていた。
「かなり劣勢だな。何か策はあるのか?」
そう言うカウラを無視して誠の両肩に手をのせて見つめるアイシャ。そんなアイシャに頬を染める誠だった。そんな中アイシャはいかにも悔しそうな顔でつぶやいた。
「残念だけどやっぱり誠ちゃんはヒロインにはなれないわね」
「あのー、そもそもなりたくないんですけど」
誠はそう言うと頭を掻いた。そしてすぐにアイシャはパーラが手にしているラフを誠に手渡す。そこにはどう見てもシャムらしい少女の絵が描かれている。だが、その魔法少女らしい杖やマントは誠にはあまりにシンプルに見えた。
「これはナンバルゲニア中尉ですか?ちょっと地味ですね」
そう言った誠に目を光らせるのはアイシャだった。
「でしょ?私が描いてみたんだけどちょっと上手くいかないのよ。そこで先生のお力をお借りしたいと……」
誠の魂に火がついた瞬間だった。伊達にアニメヒロインで彩られた『痛特機』乗りでは無いところを見せよう。そう言う痛々しい誇りが誠の絵師魂に火をつける。
「アイシャさん。当然他のキャラクターの設定もできているんでしょうね!」
そう言いながら誠は腕をまくる。ブリッジクルーが宿直室から持ってきた誠専用の漫画執筆用のセットを準備する。
「そうね。あちらがインフラ面で圧倒しようとするならこちらはソフト面で相手を凌駕すれば良いだけのことだわ!」
高笑いを浮かべるアイシャ。こういうお祭りごとが大好きな要はすでに机の上にあった機密と書かれた書類を見つけて眺め始めた。
「魔法少女隊マジカルシャム?戦隊モノなのか魔法少女ものなのかはっきりしろよ」
そう言いながら読み進めた要があるページで凍りついた。
「おい、アイシャ。なんだこれは」
片目の魔女のような姿の女性のラフ画像をアイシャに見せ付ける要。
「ああ、それは要ちゃんの役だから。当然最後は誠ちゃんと恋に落ちてかばって死ぬのよ」
何事もないように言うアイシャに要はさらに苛立ちはじめた。
「おい、なんでアタシがこいつと恋に落ちるんだ?それに死ぬって!アタシはかませ犬かなにかか?」
「よく分かったわね。死に行く気高き騎士イッサー大尉の魂がヒロインキャラット・シャムの魂に乗り移り……」
「お姉様が死ぬのか!そのようなもの認めるわけには行かない!」
背後で机を叩く音がしてアイシャと要も振り返った。
そこには楓と渡辺が立っている。楓はそのままアイシャの前に立つと要の姿が描かれたラフを見てすぐに本を閉じた。
「あのー、楓ちゃん。これはお話だから……」
なだめようとするアイシャの襟首をつかんで引き寄せる楓。
「この衣装。作ってくれないか?僕も着たいんだ」
その突然の言葉に要が凍りついた。誠はただそんな後ろの騒動を一瞥するとシャムが演じることになるヒロインの杖のデザインがひらめいてそのまま描き続けた。