突然魔法少女? 37
「別に……、あっそうだ。うちはいつでもアメリカさんの仮想敵だからな。きっと東和の新兵器開発については関心があるんじゃないか?」
表情も変えずにそう言う吉田に再びアイシャが机を叩いた。部屋の奥の楓と渡辺が何をしているのかと心配するように視線をアイシャに向ける。
「怒ることじゃねえだろうが。ったく……」
そこまで言った要だが珍しく真剣な表情のアイシャが顔を近づけてくると、あわてたように机に伏せた。
「よくって?この豊川に基地を置く以上は皆さんに愛される保安隊になる必要があるのよ!だからこうして真剣に市からの要請にこたえているんじゃないの!当然愛される……」
「こいつを女装させると市役所から褒められるのか?」
頬杖をつきながらつぶやいたカウラ。何気ない一言だが、こういうことに口を出すことの少ないカウラの言葉だけにアイシャは一歩引いてカウラの顔を見つめながら乱れていた紺色の長い髪を整えた。
「そうだ!マニアックなのは駄目なんだよ!」
「シャムちゃんに言われたくないわよ!」
いつの間にか猫耳をつけているシャム、それに言い返そうと詰め寄っていくアイシャ。
「オメー等!いい加減にしろ!」
要と同じくらい短気なランが机を叩く。その音を聞いてようやくアイシャとシャムは静かになった。
「あのなあ、仕事中はちゃんと仕事してくれ。特にアイシャ。オメーは一応佐官だろ?それに運行艦と言う名称だが、『高雄』は一応クラスは巡洋艦級。その副長なんだぞ。サラとか部下も抱えている身だ。それなりに自覚をしてくれよ」
そう言うとランは再び端末の画面に目を移した。
「まあ、いいわ。つまり票が多ければいいんでしょ?それとこのままだと際限なく票が膨らむから範囲を決めましょう。とりあえず範囲は東和国内に限定しましょうよ」
「うん、いいよ。絶対負けないんだから!」
アイシャとシャムはお互いにらみ合ってから分かれた。シャムは自分の席に戻り、アイシャは部屋を出て行く。
「何やってんだか」
呆れたように一言つぶやくとランは再びその小さな手に合わせた特注のキーボードを叩き始めた。
『心配するなよ。オメーの女装はアタシも見たくねーからな』
誠の端末のモニターにランからの伝言が表示される。振り向いた誠にランが軽く手をあげていた。
「なんだか面白くなってきたな」
そう言って始末書の用紙を取り出した要がシャムに目を向ける。必死に何か文章を打っているシャム。その様子を面白そうに見つめる要。
「おい、賭けしねえか?」
誠の脇を手にしたボールペンでつついてきた要が小声で誠に話しかけてくる。
「そんなことして大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろうが!」
当然誠をいつでも監視しているカウラの一言。だが、それも扉を開いて入ってきた嵯峨の言葉に打ち消された。
「はい!シャムが勝つかアイシャが勝つか。どう読む!一口百円からでやってるよ」
メモ帳を右手に、左手にはビニール袋に入った小銭を持った嵯峨が大声で宣伝を始める。
「じゃあ、シャムに10口行くかな」
そう言って財布を取り出そうとする吉田。ランは当然厳しい視線でメモ帳に印をつけている嵯峨を見つめていた。