突然魔法少女? 35
そこにはアン・ナン・パク軍曹の姿があった。意外な人物の登場に誠は思わず飛びのいた。
「いつからいたんだ!」
「はじめからいたんですけど……」
そう言って流し目を送ってくるアンに正直誠は引いていた。以前は西がアイシャ曰く『総受け』と呼ばれていた状況から第三小隊の発足とアンの配属により、『西キュンはアン君に対しては攻めだよね』と言う暗黙の了解が女性隊員の間でささやかれるようになっていた。
誠はその言葉の意味がわかるだけに目を潤ませて誠に視線を送るアンをゆっくりと後ずさりながら眺めていた。
確かに上半身裸でシャツを着ようとするアンはとても華奢でかわいらしく見えた。そしてそれなりに目鼻立ちのはっきりしたところなどは『あっさり系美少年』と言われる西、そして『男装の麗人』楓と運行部の女性士官達の人気をわけていることも納得できる。
「魔法少女。がんばってくださいね」
そう声をかけてにっこりと笑うアン。誠は半歩後ずさって彼の言葉を聞いていた。
「そんな……決まったわけじゃないから。それにナンバルゲニア中尉の合体ロボ……」
「駄目です!」
大きな声で叫ぶアン。誠は結ぼうとしたネクタイを取り落とした。
「ああ、変ですね……変ですよね……僕……」
誠は『変だという自覚はあるんだな』と思いながらもじもじしたままいつまでも手にしたワイシャツを着ようとしないアンから逃れるべくネクタイを拾うとぞんざいにそれを首に巻こうとした。
「いけませんよ!」
そう言って手を伸ばしてくるアンに誠は思い切り飛びずさるようにしてその手をかわした。アンは一瞬悲しそうな顔をするとようやくワイシャツに袖を通す。
「でも一度でいいから見たいですよね……先輩の……」
考えていることは一つ。更衣室から一刻も早く抜け出すこと。誠はその思いでネクタイを結び終えるとすばやくハンガーにかけられた制服を手にして、ぞんざいにロッカーからベルトを取り出す。
「そんなに……僕のこと嫌いですか?」
「いや……その……」
誠の背筋が凍った。明らかに甘えるような視線を誠に向けるアン。誠は震える手でロッカーを閉めようとするが、アンはすばやくその手をさえぎった。
「ごめんなさい!わ!わ!わ!」
誠は思わずアンに頭を下げていた。だが、アンが手にしていたのは誠の常備している日本刀、鳥毛一文字だった。
「これ、忘れてますよ」
アンはそれだけ言うとにっこりと笑う。誠はあわててそれを握ると逃げるように更衣室を飛び出した。
「廊下は走るんじゃないよー」
いつものように下駄をからから鳴らしながらトイレに向かう嵯峨の横をすり抜け、そのまま実働部隊の控え室へと駆け込んだ。