突然魔法少女? 34
「僕が魔法少女!?」
呆然とアイシャの目を見つめる誠。アイシャの目は笑ってはいなかった。
「そうよ!女装魔法少女!すばらしいでしょ?」
誠の肩を黙ったまま叩く要。誠がそちらに目を向けると要は同情のまなざしを向けながら首を振った。
「え!そうなんだ!」
わざとらしく驚いてみせるシャム。誠はその時完全に自分がはめられたことを悟った。
「あのー、アイシャさん。祭りに来た家族が見れるような作品を作らないと……」
誠の言葉に拍手をする音が聞こえた。誠は気づいて左右を見回す。
「オメー等、わざとやってるだろ」
突然、誠の鳩尾の辺りから声がして視線を下ろした。拍手をしていたのはランだった。そのままアイシャにつかつかと歩み寄る。その元々睨んでいるようなランの目つきがさらに威圧感をたたえて向かってくるので、さすがのアイシャもためらうような愛想笑いを浮かべた。
「あのなあ、こいつが魔法少女って……少女じゃねーだろ!こいつは!」
そう言うとランは思い切り誠の腹にボディーブローをかました。そのまましゃがみこむ誠。
「なんだ?神前。アタシみたいなちっこいののパンチでのされるなんてたるんでる証拠だぞ!とっとと着替えて来い!」
しゃがみこんだ誠の尻を蹴り上げるラン。誠は立ち上がると敬礼をして更衣室に駆け込んだ。明らかに口論を始めたらしい二人を背に、小走りで男子更衣室に飛び込んだ誠。
「よう、盛り上がってるな」
先客の島田がいやらしい笑いを浮かべながら入ってきた誠を眺めている。
「そんな他人事みたいに……」
そう言いながら誠は自分のロッカーを開く。
「だって事実として他人事だもんな。それにアイシャさんが『魔法少女』なんて言い出したらキャストにお前が少女役で出てくるぐらいのことは俺でも予想がついたぜ」
シャツを脱ぐ誠の背中を叩く島田。誠は急いで脱いだシャツをロッカーに放り込むとかけてあるカーキーのワイシャツを取り出した。
「まあ、今となってみればそうだとは思うんですが……でもこのままじゃ……」
うなだれる誠の肩に手をやる島田。
「まあ任せろ。こっちの選挙対策委員長はあの吉田少佐だぜ。絶対に勝ってみせる!」
そう力強く言う島田。誠は明らかに問題の根本が摩り替えられつつある現状に気づいて頭を抱えた。
「とっとと着替えないとクバルカ中佐がきれるぞ!」
そう言うと島田は更衣室から出て行った。誠は急いでワイシャツのボタンを留め、ズボンに手を伸ばす。
「あのー……」
突然誠の隣で声がした。驚いた誠が見下ろすと小柄な浅黒い肌の少年がおずおずと誠を見上げていた。