突然魔法少女? 25
保安隊二番狙撃手である彼が明らかに同情をこめた視線で誠達を見つめていた。
「エダでしょ!」
ニヤニヤと笑いながらキムを見つめるアイシャ。彼女の部下で正操舵手のエダ・ラクール少尉とキムが付き合っていることは誠も知っていた。左右を見れば要とカウラが興味津々と言うようにキムを見つめている。だが、いじられるのがあまり好きでないキムはすばやく敬礼してそのまま早足で自分の持ち場である技術部の格納庫にある小火器管理室へと去っていった。
「かわいそうになあ、明華の姐御の説教が待っているって言うのに」
そう言いながら要がシミュレーションルームを覗き込んだ。
「なんだ、エダは居ねえじゃん」
要のその言葉に興味を失ったアイシャは隣の自分の机のある運行班の詰め所に向かおうとする。
「チョイ!」
そう言いながら遅れて歩き出そうとする誠の袖を引いた要。誠が振り向くとそこにはシミュレーションルームから顔を出すエダの姿があった。
「そのまま隠れてな」
そう小声でエダに言うと要はそのままシミュレーションルームを後にした。 何事も無かったように誠はアイシャ達についていった。彼女はすでにノックもせずに運行班の扉を押し開けていた。
「今のうちだ!」
そんな要の合図に頭を下げながら廊下を走り出したエダ。
「何しているのよ!」
部屋から顔を出すアイシャに愛想笑いを振りまく要。彼女は廊下で突っ立っているカウラの肩を叩きながら部屋の奥に鎮座しているリアナを見つつ部屋に入った。実働部隊の次に階級の高い将校が多いことと、全員が女性と言うこともあり、かなり落ち着いた雰囲気の部屋だった。
誠は良く考えればこの部屋には二、三回しか来た事が無かった。だが一つ、部屋の奥にある大き目の机の持ち主が誰かと言うことはわかった。机の上には同人誌やフィギュアが正確な距離を保って並んでいる。その主の几帳面さと趣味に傾ける情熱が見て取れた。
アイシャは自分の席に特に仕事になるようなものが無いことを確認する。そんなアイシャのところにニコニコといつものように笑う部隊の女性士官唯一の既婚者。鈴木リアナ中佐がやってきた。
「ご苦労様ねえ。じゃあ私も手伝うわね配るの」
そう言って誠の手のプリントをリアナは取り上げようとする。
「いいですよお姉さん!私達の仕事ですから!」
そう言ってリアナを座らせようとするアイシャ。
「そう?別にたいしたことじゃないから手伝ってあげても……」
残念そうに机に座ると、サラがリアナに入れたばかりの日本茶を運んでくる。
「それじゃあお茶くらい飲んで行かない?誠君達にこういうことばかりさせてるのも悪いし」
その言葉にサラは奥の給湯室へと消えていく。
「別に気を使わなくても……」
カウラはそう言いながら誠の後頭部を叩く。それがお前も同意しろと言う意味なのもわかってきた誠も手を大きく振る。
「そんな気を使わせるなんて悪いですよ。それに管理部とか配るところが結構ありますから」
「大変ねえ。がんばってね!」
そう言うリアナに要がアンケート用紙を渡す。そして愛想笑いを浮かべつつリアナに頭を下げるアイシャを残して誠と要、そしてカウラは廊下へと退散した。