突然魔法少女? 24
「でもこの映画、節分にやるんですよね。姐御達は豊川八幡の節分はまた警備ですか?」
要が警備部のメンバーの数だけアンケート用紙を数えている。
「まあな。一応東都では五本の指に入る節分の祭りだからな」
そう言うと要から一枚アンケート用紙を取り上げてじっと見つめているマリア。
「マリアさんなら鎧兜似合いそうなのに、残念ね」
アイシャのその言葉に誠は不思議そうな視線を送った。
「ああ、神前君は今年がはじめてよね。豊川神社の節分では時代行列と流鏑馬をやるのよ」
「流鏑馬?」
東和は東アジア動乱の時期に大量の移民がこの地に押し寄せてきた歴史的な流れもあり、きわめて日本的な文化が残る国だった。誠もそれを知らないわけでもないが、流鏑馬と言うものを実際にこの豊川で行っていると言う話は初耳だった。
「流鏑馬自体は東和独立前後からやってたらしいんだけど、保安隊が来てからは専門家がいるから」
そんなカウラの言葉に誠は首をひねった。
「流鏑馬の専門家?」
「隊長だ」
アンケート用紙をじっくりと眺めながらマリアが答える。
「胡州大公嵯峨家の家の芸なんだって流鏑馬。去年は重さ40キロの鎧兜を着込んで6枚の板を初回で全部倒して大盛り上がりだったしね」
アイシャはそう言うとマリアの机の上の書類に目を移した。
「シフト表ですね。警備部は休むわけには行かないから大変そうですよね」
「その大変なところに闖入してきていると言う自覚はあるならそれにふさわしい態度を取ってもらわないとな」
明らかに不機嫌そうなマリアの言葉に誠は情けない表情でアイシャを見つめた。タレ目の要はようやく警備部の人数分のアンケート用紙を取り上げるとマリアに手渡した。
「まったく隊長には困ったものだな」
そう言いながら再びシフト表に視線を落すマリア。
「じゃあ、失礼します」
とっとと部屋を出て行こうとするアイシャと要を引き戻そうとするカウラ。誠はそんな女性上司のやり取りに冷や汗をかきながら扉を閉めた。
「鎧兜ですか?そんなものが神社にあるんですか?」
誠の言葉を白い目で見る要達。
「叔父貴の私物だよ。まあ胡州の上流貴族の家の蔵にはそう言うものが山とあるからな」
そう言ってそのままブリッジクルーの待機室に向かおうという要。誠は感心するべきなのかどうか迷いながら彼女のあとをつける。
「そう言えば今度二人新人が配属になるって本当?」
カウラはそれとなくアイシャに声をかけてみる。だが、アイシャはどうでもいいというようにそのまま正面玄関を越えて別棟へと向かう。
「あれ?四人おそろいで何をしようって言うんですか?」
その声の主は保安隊の運用艦『高雄』のブリッジを模したシミュレーションマシンから出てきた技術部の火器整備班の班長キム・ジュンヒ少尉だった。