突然魔法少女? 23
「珍しいじゃないの。あなたが一人なんて……他の連中は?」
アイシャに笑いかけられて照れるヨハン。そしてすぐに一階の奥の資材置き場を指差した。
「昨日、西の野郎が怪我しましてね。それを島田がレベッカをだましてごまかそうとしたもんだから許大佐がきれちゃって絞られてるんですよ」
そう言うと苦笑して軽く両手を広げるヨハン。
「西きゅんが怪我したって……大丈夫なの?」
アイシャが食いつくようにヨハンを睨みつけた。西高志兵長は保安隊でも数少ない十代の隊員である。アイシャ達ブリッジクルーが弄り回し、技術部整備班の班長島田正人准尉と副班長レベッカ・シンプソン中尉が目をかけている少年兵である。
特にレベッカとは非常に親密と言うより、『シンプソン中尉のペット』と呼ばれるほどで、ほとんど彼女の手足として動いている西に嫉妬する隊員も多く存在した。
「なんてことは無いんですよ。手袋使わずにアクチュエーターの冷却材を注入しようとして低温火傷しただけですから。でもまあ、たまにはああいう風に姐御にシメてもらったほうが……ってそれに書くんですか?さっきのアンケート」
そう言うと誠の手からアンケート用紙を奪い取るヨハン。
「姐御がからんでるとなると半日は説教が続くだろうな。じゃあ、ヨハン。こいつを配ってくれよ」
要はそう言うと誠からアンケート用紙を奪い取って数を数え始めた。
「やはり、整備班には綱紀粛正が必要だからな」
頷くカウラをアイシャがぐるりと彼女の周りを回ってため息をついた。その視線がカウラの平坦な胸を見つめていたことに誠はすぐに気づいた。レベッカは部隊一のプロポーションを誇る。それを明らかに胸の無いカウラを哀れむような視線でアイシャは見つめている。
「アイシャ。私の胸が無いのがそんなに珍しいのか?」
こぶしを握り締めながらカウラの鋭い視線がアイシャを射抜く。
「誰もそんなこと言ってないわよ。レベッカが仕事の邪魔になるほど胸があるのにカウラ・ベルガー大尉殿のアンダーとトップの差が……」
そこまで言ったアイシャの口を押さえつける要。
「下らねえこと言ってないでいくぞ!」
そう言うと要はヨハンに半分近くのアンケート用紙を渡してアイシャにヘッドロックをかける。
「わかった!わかったわよ。それじゃあ」
要に引きずられながら手を振るアイシャ。誠とカウラは呆れながら二人に続いて一階の資材置き場の隣の廊下を進んだ。
中からは明華の罵声が切れ切れに聞こえてくる。
「島田の奴。今日はどんだけ絞られるのかな」
そう言いながら残ったアンケートを誠に返す要。咳き込みながらも笑顔で先頭を歩くアイシャが資材置き場の隣の警備部の部長室のドアをノックした。
「次はマリアの姐御か」
大きくため息をつく要。
「開いてるわよ」
中から良く響く女性の声が聞こえる。アイシャは静かに扉を開いた。嵯峨の隊長室よりも広く見えるのは整理された書類と整頓された備品のせいであることは四人とも知っていた。マリアは先ほどの騒動を見ているだけに呆れた様子でニヤニヤ笑っているアイシャを見つめた。
「好きだなあ、お前等は」
そう言うとマリアは机の上の情報端末を操作する手を止めて立ち上がった。