突然魔法少女? 2
「あのー!重いんですけど」
誠は鎧姿で抱きついてきたシャムを押しのけようとするが、20kgはあろうかと言う鎧の重さによろめいた。
「ここにいたのか」
二人がじゃれ付いているのを眺めながら黒糸縅の渋い大鎧を着込んだ美しい面差しの女性士官が現れる。嵯峨惟基隊長の双子の娘の妹、実働部隊第三小隊隊長嵯峨楓少佐である。そして当然のように付き従うのは彼女の愛人と噂になっている渡辺かなめ大尉。こちらは桜色の大鎧に烏帽子姿で楓に従ってくる。
「やはり似合いますね、要お姉さま」
そう言って要に手を伸ばそうとするが、要は思い切り後ろに引いた。その姿を確認する楓の頬が赤く染まる。二人の関係は明らかに泳いでいる目をしている要と濡れた瞳でしつこく要の姿を嘗め回すように眺める楓を見ればすぐに想像がつくのでいつものことながら誠は大きくため息をつく。
「向こう行けよ。アタシはもうすぐ着替えるんだから……」
誘惑するような楓の視線から逃げようとする要だが、楓はあきらめようとはしない。
「それなら僕がお手伝いしますよ」
そう言って楓は要の後ろについていこうとする。
「だあ!オメエは誠の着替えでも手伝ってやれ。それにシャムとかカウラとか鎧の脱ぎ方もわからねえだろうから教えてやれ」
そう言うと一気に人ごみに飛び込んでしまう要。ガチャガチャと響く鎧の擦れる音だけが残される。
「神前君」
要にかけられた素直な言葉の色と、誠に向かう氷のように冷たい言葉の温度に、いつものことながら誠は冷や汗を流した。明らかに敵意に満ちた楓の冷たい視線に誠は諦めだけを感じていた。
「はい!なんでしょう!」
すぐに目をつけられる。誠は自分の不運を呪った。
「君は道場の跡取りだと聞いたからベルガー大尉とクラウゼ少佐の着替えを手伝ってやってくれ。僕はあの観光客気分の連中を何とかする」
そう言ってじゃれあうロナルド達に向かっていく楓。ため息をついてカウラとアイシャの顔を見る。誠は楓がどうも苦手だった。一部の整備員に「僕っ娘萌え」として人気のある彼女だが、要に苛められることに喜びを見出すと言う楓には要のサディスティックな好意がひたすら注がれている誠は完全に目をつけられていた。時々彼女の視線に殺気が混じっていることもあるくらいだった。
しかし、さすがに東都西部を代表する豊川八幡宮の節分、観光客に囲まれれば他人の目もあることもあって楓は何もせずに抱きつこうとするフェデロを投げ飛ばし、そのままロナルド組を連れて運営本部に向かった。
「よかったわね、なにも起きなくて」
そう言うとアイシャはカウラの肩を叩く。カウラも気付いたように太刀を抜いたり差したりして遊んでいるシャムを取り押さえつける。駄々をこねる彼女をアイシャと一緒に捕まえると誠も一緒に運営本部へと向かった。
「アイシャさん!」
そう言って技術部整備班班長島田正人准尉と運用艦ブリッジクルーのサラ・グリファン少尉が駆け寄ってくる。二人ともすでに東和陸軍と同じ深い緑色の勤務服に着替えていた。
「早く着替えた方がいいですよ。何でもあと一時間で豆を撒きにきたタレントさんが到着して場所が取れなくなるみたいですから」
そう言うと島田はきょろきょろと人ごみを見回す。
「そう言えばクバルカ中佐、見ませんでした?」
島田の言葉にアイシャもカウラも、誠ですら首を横に振った。保安隊の主力人型兵器『アサルト・モジュール』を運用する実働部隊の最高任者で保安隊の副長でもある重鎮の行方不明に島田は焦ったように周りを見回していた。