突然魔法少女? 17
「映画を作ることになったんだけど……ねえ……」
保安隊隊長室。通称『ゴミ箱』でこの部屋の主、嵯峨惟基特務大佐は口を開いた。
呼び出された保安隊アサルト・モジュール部隊、第二小隊隊員神前誠曹長もこの部屋の異常な散らかりぶりに慣れてきたところだった。床には『遼州同盟機構軍軍令部』と書かれた紙と硯が転がっている。かと思えば執務机にはいつものとおり万力がボルトアクションライフルの機関部をくわえている。
「なんでこの面子?」
明らかに不機嫌なのは、喫煙可と言うことで口にタバコをくわえて頭をかいている保安隊第二小隊の西園寺要大尉。誠の上官である。隣で嵯峨の言葉に目を輝かせているのは保安隊の運用艦『高雄』副長のアイシャ・クラウゼ少佐と第一小隊のエースとして軍関係者には知らないものがいないと言うナンバルゲニア・シャムラード中尉の二人だった。
「市役所ですか?そんな馬鹿なこと言ってきたの。俺は付き合いませんよ」
頭を掻きながら抜け出すタイミングを計っているのは、電子戦では右に出るものはいないと言う切れ者で知られる第一小隊の電子戦担当の吉田俊平少佐。
「これも任務ですよ。市民との交流を深めるのも仕事のうちですから」
完全に諦めたと言う表情でそう言うのは、第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉だった。嵯峨の言葉を聞いて隣に立っている誠を前に押し出すように彼女が半歩下がったのを誠は見逃さなかった。
「カウラの言うとおりよ。これもお仕事。だからあなた達でなんとかしなさい」
執務机に座って頭の後ろに手を組んでいる嵯峨の隣には、保安隊の最高実力者として知られた技術部部長許明華大佐が控えている。彼女の言葉に逆らう勇気のあるものはこの部屋にはいなかった。保安隊アサルト・モジュール部隊の隊長で保安隊副隊長でもある明石清海中佐も諦めた調子で頷いていた。
「それで隊長。映画と言ってもいろいろありますが……」
アイシャのその言葉に嵯峨は頭を掻きながら紙の束を取り出した。
「まあ投票で決めるのがいいんでないの?」
そう言って全員に見えるようにその紙をかざす。
『節分映画祭!希望ジャンルリクエスト!』
明華はすぐにその紙の束を受け取ると全員にそれを渡した。
「希望ジャンル?私がシナリオ書きたいんですけど!」
そう言って鉄粉の積もっている隊長執務机を叩くアイシャ。その一撃で部屋中に鉄粉と埃が舞い上がり、椅子に座っていた嵯峨はそれをもろに吸い込んでむせている。
「オメエに任せたらどうせ18禁になるだろうが!」
そう言ってアイシャの頭をはたく要。カウラはこめかみに指を当てて、できるだけ他人を装うように立ち尽くしている。
「どうせ俺が撮影とかを仕切れと言うんでしょ?」
要とアイシャのにらみ合うのを一瞥すると吉田はそう言ってため息をついた。
「まあな。吉田は昔歌手のビデオクリップとか作ってんじゃん。その腕前を見せて頂戴よ。どうせ素人の演技だからお前さんの特殊技術で鑑賞にたえるものにしてくれねえと俺の面子がねえからな」
そう言うと嵯峨は出て行けというように左手を振った。