突然魔法少女? 160
「なによ!せっかく助けてあげたのに」
「助けるだ?オメー……。助けるってのは違うだろうが!」
怒鳴り声を響かせはじめたランとアイシャにさすがの観客も引き気味にそれを眺める。
「今度こそは……」
「なんなんですか?」
エントランスホールの片隅で隠れているつもりらしい嵯峨に誠が声をかけた。
「いきなり話しかけるなよ。俺は気が弱いんだから」
「冗談はそれくらいにしましょうね」
誠の後ろからの声に覗き込む嵯峨。そこには笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていないリアナがいた。
「ああ、鈴木か」
「鈴木か、は無いんじゃないですか?あんまりアイシャちゃん達をいじめてるとしっぺ返しを食らっても知りませんよ」
そう言われて落ち込んだように下を向く嵯峨。
「だってさ、この上映にかかる費用とかは確かに市が持っていてくれてるけどさあ、製作までにこいつ等が馬鹿やったり宣伝とか言ってあっちこっちにメールしまくったりする費用うち持ちなんだぜ」
「だからと言ってこういうふざけたことは駄目ですよ。ちゃんとあとで吉田君を説得してアイシャちゃんに謝りましょうね」
そう言い切るリアナにさらに嵯峨が落ち込む。
「でも良いじゃないですか。これの方が面白かったですよ。実際、登場人物の設定には近かったですし」
誠の言葉にリアナの目が輝く。
「設定なんてあったの?もしかして衣装とか決めたの誠ちゃんだからその時アイシャから何か貰ったのね!」
食いつきの良すぎるリアナに慌てて頷く誠。
「後で見せてもらうとしてだ。あれどうするんだ?」
携帯端末を持った男性陣の前でポーズを取るシャム。相変わらず口げんかを続けるアイシャとラン。それをニヤニヤしながら止めるわけでもなく眺めている吉田とカウラ。要の姿が見えないのはタバコでも吸いに行ったのだろう。
「隊長!許大佐は……」
「アイツはとっとと基地に帰ったよ。鈴木。頼むわ」
保安隊の事実上の最高実力者の技術部部長許明華大佐がいない今、この状況を収められるのは運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナ中佐しかいなかった。リアナは今度はいつものほんわかと温まるような笑顔を浮かべて騒いでいるラン達に向かっていく。
「はいはーい。お楽しみ会はここまで!皆さんお気をつけてお帰りくださいね!」
保安隊の制服で手を叩きながら近づくリアナを見て客達はようやく平常を取り戻して出口へと向かう。
「やるもんだなクラウゼ」
息を切らしてホールの中央で仁王立ちするラン。
「小さいくせにやるじゃない」
同じように立ち尽くすアイシャ。
「見てみな、誠ちゃん。友情が芽生える瞬間だよ!」
シャムが近づいてきた誠にそう声をかける。
「やっぱりこいつ等馬鹿だな」
カウラのその一言がしみじみと誠の心に染み渡った。
(了)