突然魔法少女? 15
扉を開いた誠の前に立っていたのはこれまた派手な金や銀の鎧を着込み、そのくせへそを出したり太ももを露出させているコスチュームを着た第三小隊隊長、嵯峨楓少佐だった。
「ああ、今着替えたところだが……これからどうすれば?」
何度か右目につけた眼帯を直しながら誠に聞いてくる楓。だが、その視線がシャムに手を引かれて入ってきた要に気がつくとすぐに頬を染めて壁の方に向かってしまう。
「お姉様が来てるって何で知らせないんだ!」
小声で誠につぶやく楓。
「そんなこと言われても……」
「はいはーい。要ちゃん!これ」
雑用に走り回る警備部の面々にジュースを配っているリアナ。どう見ても軍の重巡洋艦クラスの保安隊の所有する運用艦『高雄』の艦長とは思えないような気の使い方である。
「リアナさんこっちもお願い!」
そう言って手を上げるのは、音響管理端末を吉田と一緒に動作確認をしているリアナの夫である菱川重工の技師鈴木健一だった。
「ったくめんどくせえなあ」
そう言いながらジュースのプルタブを開けた要。そんな彼女を見て大変なものとであったとでも言うような表情でサラとパーラ、そしてレベッカが箱を抱えて近づいてきた。
「西園寺さん。これ」
おずおずとレベッカが箱を差し出すが、中身を知っている要は思い切りいやな顔をした。
これから上映されるバトル魔法少女ストーリー『魔法戦隊マジカルシャム』のメインキャストでの一人、キャプテンシルバーの変身後のコスチューム。ぎらぎらのマント、わざとらしくつけられたメカっぽいアンダーウェア、そしてある意味、要にはぴったりな鞭。
「やっぱやるのか?終わったら」
約二時間の上映が終わったら開催される予定の撮影会。昨日もこのイベントが嫌だと寮で暴れていた要である。
「ここまできたらあきらめなさいよ」
そう言ったのは保安隊技術部部長、そして影の保安隊の最高実力者とも言われる許明華大佐だった。
「あのー、姐御?なんか怖いんですけど」
そう言ったのは要だった。
確かに両方の肩にバスケットボールほどの棘付き鉄球のようなものをつけて、さらに顔には白を基調にしたおどろおどろしいメイクが施されている。
役名『機械魔女メイリーン将軍』。
本人は気乗りがしないと言うことがそのこめかみの震えからも見て取れた。
「皆さんおそろいで……」
奥の更衣室から出てきたのは両手に鞭のようなバラのツルをつけてほとんど妖怪のような格好をさせられた保安隊のたまり場『あまさき屋』の女将、家村春子だった。
「お母さん大丈夫?」
その姿に少し引いている娘の小夏が声をかける。
「なに言ってるの!これくらいなんてことはないわよ……ねえ!」
そう言って春子はジュースを配りに来たリアナに声をかける。
「そうよ!私もやりたかったくらいですもの」
リアナはすっかり彩り豊かな衣装に囲まれて興奮しているようで、顔が笑顔のままで固定されているようにも見えた。
「それと、これ神前君ね」
レベッカは誠に数少ない男性バトルキャラ『マジックプリンス』の衣装を手渡した。