突然魔法少女? 146
誠が甘酒を持って振り返ると要の姿は無かった。早足でそのまま階段をあがって管理部の白い視線を浴びながら隣の詰め所に飛び込む。
「なんだ?……うん。旨そうだな」
第四小隊小隊長ロナルド・J・スミス特務大尉が誠の手の中の甘酒に視線を向けていた。
「ああ、これならハンガーでレベッカさんが配ってますよ」
「あいつは……まあ良いか。ジョージ、フェデロ、行くぞ」
端末のモニターのグラビアを見ていたフェデロ、報告書にペンでサインをしていた岡部がロナルドの言葉で立ち上がる。そしてロナルドは鼻歌を歌いながら出て行った。
そして誠はそっぽを向いて机の上に足を投げ出している要を見つめた。
「お姉さま。また喧嘩ですか?」
奥の席でモニターを覗きながら第三小隊小隊長の嵯峨楓少佐が声をかけてくる。
「うるせえな!」
そう言うと要は目を閉じる。
「ここ、置いておきますから」
誠はそう言って要の分の甘酒を机の端に置いた。
「いいですね、甘酒ですか。遼南でも時々飲むんですよ」
第三小隊三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が甘えた声を出して誠の手の中の甘酒を見ている。
「遼南にもあるのか。楓様……」
いかにも飲みたそうな二番機担当の渡辺かなめ大尉。そう言われた楓はキーボードを打つ手を止める。
「そうだな。少し休憩と行くか」
そんな楓の声に横を向いてしまう要。
「西園寺さん……」
誠は彼女の正面の自分の席に座った。
「あいつ等と一緒にいろよ。アイシャとか……」
「お姉さま!」
いじけたような調子の要に楓が声を荒げた。目を開けて楓の顔を見ると、すこしばつが悪そうにアイシャが『変形おかっぱ』と呼ぶこめかみのところが一番長くなっている髪をかきあげる要。
「飲む」
そう言って手を伸ばす要。誠はようやく笑顔を浮かべて甘酒を要に手渡した。楓は安心したようにまことを見て頷くとアンと渡辺を連れて出て行く。誠と要。二人は詰め所の中に取残された。
「ごめん」
ぶっきらぼうに手を伸ばして軽くコップを包み込むようにして手に取った。そしてゆっくりと香りを嗅いだ後、一口啜って要がそう言った。
「別に謝る必要は無いですよ。ただ要さんにも楽しく飲んで欲しくて……」
「あのさあ、そんなこと言われるとアタシは……」
楓達が甘酒を求めて出て行って二人きりの部屋。少し照れながら楓は両手で紙コップの中の甘酒を見つめていた。