突然魔法少女? 141
「オメエから話せよ。実の親父のことだろ?」
そう言って上体を上げて茜を見た後は目をつぶってソファーに体を落ち着ける要。その声を聞くと茜は神妙な表情で誠を見つめながら語りだした。
「お父様、いえムジャンタ・ラスコーは遼南王族なのはご存知ですわよね」
「そこから話すか?ぱっぱと言えよ」
天井を見上げて要が声を張り上げる。仕方が無いと言うような表情をして茜は再び口を開く。
「遼南王家にはこんな言い伝えがありますの。遼州の民の頂上に立つ人物、皇帝に即位する地位にある者が法術の素養に恵まれていれば国が乱れると。そのため当時の女帝、お父様の御祖母様に当たるラスバ帝はお父様の力を封印されたんです」
「まあ先日のスポーツ選手の法術発動が不公平になるとか言うことで公開された法術封印技術と言う奴だ。急にいくら地球の親切な人達がいるからってすぐに見付かる方法じゃねえのはわかるだろ?臨床心理学的方法と生理学的方法を駆使して法術の発生の元である大脳旧皮質に刺激を与えて機能を低下させると言うあれだ」
そう言って胸のポケットのタバコに手をやった要を非難する調子で見つめる茜。
「そしてそのような先進技術ではありませんが、能力の発動そのものを抑えてしまう外科的技術が遼南王家には有るんですの」
「外科的技術?」
茜の言葉にカウラが怪訝な顔をする。
「そう、脳内に何本か針を打ち込む方法です」
「おい、大丈夫なのかよそんな民間療法……ってあの叔父貴がそんなもんで死ぬわけも無いか」
やけになったような要の声。無視して茜は話を続ける。
「本来はそれにより成長過程で次第に法術の発動が阻害されて力を使えないようになるはずだったのですが……」
「普通の法術適正者だったらな」
ポツリとつぶやく要。『普通』とは明らかに違う行動パターンの嵯峨を思い出し笑いそうになる誠だが、要と茜の顔には笑顔など無かった。
「ご存知ですよね、不死人の噂は?」
突然、茜の口からオカルトじみた言葉が出てきたことで誠は首を振るしかなかった。
「お父様は意識がある限り体細胞が再生してしまう体質なんです」
その言葉に誠は一瞬思考が止まるのを感じた。
「再生?だったら法術の封印も……」
「不完全だったんですの。それで法術の多くは封印されましたが再生能力だけが突出して発動する体質になってしまったんです」
茜の言葉が暗いことが誠に不審に思えた。
「再生能力が早いってことは便利じゃないですか。怪我をしてもすぐに直るんですよね?」
そう言った誠の言葉に要と茜は目を合わせる。そして少し悲しげな面持ちで茜が話を続ける。
「その能力の制御ができればと言う前提がつきますわね、再生能力が役に立つ状況であるには」
そしてラーナが運んできた紅茶がテーブルに置かれる。先ほど拒否したはずだと言うのにラーナからカップを受け取る要。
「取りあえず叔父貴はそう簡単に怪我するほど鈍くは無いけどな。けどあのボケは、前の戦争の遼南戦線で法術について非常に高い関心を持っている組織に投降をするという失態を犯した。結果、不完全で制御ができないまま法術能力の増幅がその組織で行われたってわけだ」
静かに語る要。誠もラーナが置いたカップを静かに手に取った。