突然魔法少女? 140
「それではうかがいますが、お二人に神前曹長がこうなる前に手を打てる自信はありますの?以前は原因不明の事故による死亡と言うことで片付けられてきたこういう遺体がこれからは法術暴走による死亡と言う死因が付け加えられた事実は隠しおおせませんわ」
優雅に湯飲みに手をやる茜を誠は見つめていた。異常な発汗は続いている。そして自分がいつかはその死体と同じ運命をたどるかと思うと体の力が抜けていく。
「神前さんを助けることが出来るのですか?もしこうなる状態にまで追い込まれたとして」
その穏やかな表情に似合わぬ強い語気に誠は茜が間違いなく嵯峨の娘であることを確認した。
「それは……」
うろたえ気味に言葉に詰まるカウラ。
「そこが知りてえんじゃねえよ!アタシは何で今頃……」
「要お姉さま!」
今度はその笑顔が言葉とともに茜から消える。
「ねえよ、そんな自信は……」
そう言って端末のキーボードを叩くラーナに目をやる要。
「それではお二人ともいざと言うときは神前さんを見殺しにするおつもりだと?力に、法術に取り込まれて我を失って暴走して自滅する誠さんを……」
「んなこと言ってねえだろ!」
要はテーブルを叩いた。テーブルがひしゃげなかったのが不思議なほどの大音響にそれまで淡々とモニターを覗いているだけだったラーナも要の方を向いた。
「できるだけ神前曹長には力を使わせないような作戦を取るように心がけている、それに……」
「事実としてはこれまで二回、神前さんの力のおかげで助けられていますわね、お二人とも」
そんな茜の穏やかな言葉に押し黙る要とカウラ。
誠は黙って話を聞いていた。恐らくは連続放火事件の犯人である発火能力、パイロキネシスの使い手の法術暴走による自滅。それが自分にも訪れるかもしれない未来だと思えば次第に震えだす足の意味も良く分かってきた。
「じゃあ、どうしろっていうんだ?それに法術暴走の可能性ならオメエにもあるだろ?」
ようやく話の糸口を見つけた要の言葉ににっこりと笑っている茜。
「そうですわね。ワタクシにも起こりうる出来事には違いありませんわ。でもそれを覚悟しているか、知らずに境界を踏み越えて自滅するか。私なら覚悟をする方を選びたいと思っています」
そう言うと茜はラーナを見つめた。その目に反応するようにそのまま戸棚の紅茶セットに向かおうとするラーナ。
「そんなにここに長居する気はねえよ」
再びソファーに体を投げた要を見てラーナは手を止める。
「それよりこのことは叔父貴は知ってるのか?」
あごを引いて茜を見つめる要。
「いつかはワタクシから伝えろとは言われていますけど……」
「なるほどねえ、まあ一番ああなる可能性の高いのは自分だしな」
「それってどういうことですか?」
誠はようやく落ち着いて要の言葉に口を挟んだ。
「なあに、言ったまんまの意味だよ。暴走の起きる可能性は叔父貴が一番高い。そう言うこった」
そう言って要は再びひざの上に腕を乗せて起き上がった。