突然魔法少女? 14
「あ!外道がサボってますよ」
劇場の中から甲高い声が響く。そこにはフリフリの魔法少女姿の小夏が要を指差していた。
「おい、ちんちくりん!人を指差すなって習わなかったのか?」
そう言ってずんずんと近づいていく要。小夏の周りにはどうにも近寄りがたいオーラをまとった男達と小夏の友達の中学生達が遠巻きに立っていた。
「とう!」
突然の叫び声と同時に、誠の目の前では要の顔面に何かが思い切り飛び蹴りをしている姿が見えた。その右足は要の顔面を捉え、後ろへとよろめかせる。そして何者かが頭を振って体勢を立て直そうとする要に向かって叫んだ。
「やはり寝返ったな!イッサー大尉。このキラットシャムが成敗してあげるわ!」
それはピンク色を基調としたドレスを着込んだシャムだった手にステッキを持って頭を抱えている要に身構える。
「テメエ……テメエ等……」
膝をついてゆっくりと立ち上がる要。サイボーグの彼女だから耐えられたものの、生身ならばいくら小柄のシャムの飛び蹴りといっても、あの角度で入れば頚椎骨折は免れないと思いつつ、誠はシャム達の様子をうかがった。
「さすが師匠!反撃ですよ」
「違うわ!サマー。私はキラットシャム!魔法で世界に正義と愛を広める使者!行くわよ……グヘッ!」
シャムの顔面をわしづかみにして締め上げる要の顔には明らかに殺気が見て取れた。
「卑怯だよ!要ちゃん。ちゃんとこういう時の主人公側のせりふが続いているときは……痛い!」
「ほう、続いているときはどうなんだよ?良いんだぜ、アタシはこのままお前の顔面を握りつぶしても、なあ誠」
そう話を振ってくる要に観衆は一斉に眼を向ける。
明らかに少女を痛めつけている軍服を着た女とその仲間。視線は誠にこの状況の収集を要求していた。
「あのー、二人ともこれくらいにしないと……」
「おお、そうか。神前もここで終わらせるのが一番と言うことか。安心しろ、シャム。痛がることも無くすぐに前頭葉ごと握りつぶして……」
そこまで要が言ったところで今度は竹刀での一撃が要の後頭部を襲った。
「いい加減にしろよな!馬鹿共!とっとと引っ込んで持ち場に戻ってろ!」
ランの登場。しかし、彼女は黒をベースにしたゴスロリドレスと言った格好をしており、よく見ると恥ずかしいのか頬を赤らめている。要もさすがにシャムの顔面を握りつぶすつもりは無いと言うようにそのまま痛がるシャムから手を離すと、今度はランに目を向けた。
「これは中佐殿!ご立派な格好で……ぷふっ!」
途中まで言いかけて要は笑い始めた。こうなると止まらない。ひたすら先ほど指をさすなと言った本人がランを指差して大笑いしている。
「おい、聴いたか?あの子……中佐だってよ」
「すげーかわいいよな。でも中佐?どこの軍だ?保安隊は遼州全域から兵員集めてるからな……遼南?」
「でもちょっと目つき悪くね?」
「馬鹿だなそれが萌えなんだよ。わからねえかなあ……」
周りのカメラを持った大きなお友達に写真を撮られているラン。そのこめかみに青筋が浮いているのが誠にも分かった。
「すいません!以上でアトラクションは終了ですので!」
そう言うと誠はランと要の手を引いてスタッフ控え室のある階下の通路へと二人を引きずっていった。シャムと小夏も誠の動きを察してその後ろをついていく。