突然魔法少女? 139
誠はしばらくして、それが白骨死体ではなくミイラ化した死体であることに気づいた。それと同時に眼孔の奥に見える目玉だけがまるで生きているように輝いているのが分かる。
「お気づきですか、神前さん」
穏やかな茜の言葉。誠はこの死体の発見された連続放火事件の詳細について思い出そうとしていた。
「ちょっと検死の結果を見せろよ」
要はそう言って助手を気取ってモニターの前に座っているラーナの頭を小突く。彼女は少し不服そうな顔をするが、茜が頷くのを見るとキーボードを叩いた。
「この死体の特異性はその脳の水分の分布状況にあります。大脳の水分はほぼ蒸発しているのに小脳や延髄の細胞には一切の異常がありませんでした」
画面には脳のレントゲン、CT、MRIや実際の解剖しての断面図までが表示された。この画像に次第に先ほどまで食べていたどんぶりモノの中身が逆流しそうになって誠は口を押さえる。
「何びびってんだよ」
そう言いながら要はそのまま横からラーナのキーボードを奪って断面図を拡大させる。
「これが噂の法術暴走か」
ぽつりとカウラがつぶやく。その言葉に要は画面の前の顔をカウラに向けた。明らかに呆れたような要の顔を見てカウラは自分が言ったことの意味を気づいて誠を見つめる。
「法術暴走?それってなんですか?」
手足の感覚がなくなっているのを誠は感じていた。画像の中の輪切りの脳みそ。ほとんど持ち主が生きていた時代の姿を残していない奇妙な肉塊にしか見えないそれと、自分の視野だけがつながっているように感じる。力が抜けてそのまま上体がぐるぐると回るような気分になる誠。
「おい、大丈夫か?」
そう言って誠の額に手を当てた要はすぐに茜をすごむような視線でにらみつけた。
「お姉さま。落ち着いていただけませんか?」
茜は表情を殺したような顔で要を見つめ返す。しばらく飛び掛りそうな顔を見せていた要も次第に体の力を抜いてそのまま近くのソファーに体を投げ出す。
「神前よう。お前もいつかこうなるかも知れねえってことだ」
そう言うといらいらした様に足をばたばたとさせる要。誠は画面の肉の塊から必死になって視線を引き剥がす。その先のカウラは一瞬困ったような顔をした後、すぐに目をそらした。
「力を持つ。人に無いものを持つ。その代償がどう言うものかそれを知ることも必要ですから」
そう言って茜はまだ子供のように足をばたつかせている要をにらみつけた。要もさすがに自分の児戯に気づいたのか静かに上体を起こしてひざの上に手を組んでその上に顔を乗せた。
「だけど今なんでこういうものを見せるんだ、こいつに」
要のタレ目の視線がいつもの棘はあるが憎めないようなものに戻る。それを見ると茜は要の前のソファーに腰を下ろした。
「ベルガー大尉。神前さん。おかけになられてはどう?」
その言葉にカウラは神前の肩を叩く。我に返った誠はカウラにの隣、茜の斜め左側に腰を下ろした。