突然魔法少女? 13
「これか」
カウラはそう言うとエダが用意したチケットの入った箱を見た。隣には釣り用の小銭、そして隣にはパンフレット。そしてその隣には……。唖然とする誠とカウラを見るとアイシャは手早く雑談をしていた客に挨拶をして誠達に近づいてくる。
「さてと!とりあえず要は脱いで……」
そこまでアイシャが言ったところで要は彼女の前に積まれた同人誌を一冊丸めて思い切り叩く。その姿に盛り上がる観衆。
「ナイスよ!要ちゃん。その反応を待っていたの!皆さん!では受付を開始します!」
アイシャはそう言うと彼女の体を張った芸に感心する知り合い達に愛想笑いを浮かべながら券をわたす。
「五百円に……それじゃあこれがお釣りで」
なんともぎこちない感じで受付をするカウラ。だが、一部の熱い視線が彼女に注がれているのが、そう言うことには疎い誠にもすぐに分かった。
「誠ちゃん、ちょっと列の整理お願いできるかしら?それと要は邪魔だからそのまま帰っていいわよ」
「んだと!コラァ!」
食って掛かろうとする要を押さえつけて誠はそのまま受付のロビーから外に並んでいる列の整理に当たることにした。とりあえず今のところは混乱は無い。だが……。誠は隣に立っている要の様子を伺っていた。明らかに不機嫌である。右足でばたばたと地面を叩いていて、観客達を嘗め回すように見つめる。
元々それほど要の顔つきは威圧的ではない。どちらかと言えば色気のある顔だと誠は思っていた。遼州や地球の東アジア系にしては目鼻立ちははっきりしていて、特徴的なタレ目には愛嬌すら感じる。
だが、明らかに口をへの字にまげて、ばたばたと貧乏ゆすりを続けていて、しかも着ている制服は東和軍と同じ。一部のミリタリー系のマニアが写真を取ろうとするたびに威嚇するように目を剥く要。
「なんか、僕はすることあるんですかね……」
確かに要が行列を監視し始めてからはすっかり行列の混乱は無くなり、するすると会館のロビーへと人々は流れ始めていた。
「そこ!タバコ!」
そう叫んで要が一人の迷彩服の男に近寄っていく。誠もこれはと思いそのまま要の後をつけた。
「禁煙ですか……消します」
要の迫力に負けて男はすぐに持っていた携帯灰皿に吸いかけのタバコをねじ込む。それを見ると不思議そうな顔をして要は誠の待つロビーの前の自動ドアのところに帰ってきた。
「くそったれ、もう少し粘ったらタバコを没収してやろうと思っていたのに」
そう言うと今度は自分でポケットからタバコを取り出しそうになってやめる要。その様子を誠に見られていかにもばつが悪いと言うように空を見上げる。次第にアイシャの交友関係から発展して集まった人々はいなくなり、町内の見知った顔が列に加わっているのが見える。
「おい、もう大丈夫だろ?戻ろうぜ」
そう言うとまるで誠の意思など確認するつもりは無いと言うように要は受付へとまっすぐに向かっていく。誠もそれにひきづられるようにして彼女の後を追った。