突然魔法少女? 128
「へえ、シャムも手伝ったのか。これおいしそうだな」
そう言って紙皿を配っていたパーラから皿を受け取ったランが手を伸ばす。
「じゃあとんかつを行くぜ」
「ランちゃんそれとんかつじゃ無いよ!」
同じく皿を受け取ったシャムがいなりずしを皿に乗せながら、衣の付いたどう見てもとんかつにしか見えないものをつかんでいるランに言った。
「おい、どー見たってとんかつ……ああ、あれか」
ランはそう言うと皿に乗せたとんかつをそのまま会議室のたたんだテーブルに置いた。
「もしかしてイノシシ?」
誠の言葉に大きく頷くシャム。
「猟友会から頼まれたのか。春子さん、こいつ何キロくらい持ち込んだんですか?」
嵯峨はそう言うとランがようやく決意が付いたように皿を取り上げるのを見ながらイノシシのとんかつをつかむ。
「去年に比べると少ないわよ。だいたい20kgくらいじゃないかしら」
「好きだよね師匠も」
春子に合わせて小夏もとんかつに箸を向ける。誠もそれに手を伸ばした。
遼南の森の中で育ったシャムは狩が得意なのは有名な話だった。非番の時には猟友会のオレンジ色のベストを着てグレゴリウス13世を猟犬ならぬ猟熊にして豊川の町のはずれの農村へ向かう。近年の耕作地の放棄と山林の管理不足からトウワイノシシと呼ばれる2メートルもある巨大な遼州固有種の猪がこの豊川でも問題になっていた。
イスラム教徒の管理部長シンがいた関係で部隊には直接持ち込んではいないが、春子の『あまさき屋』には時々シャムが狩った猪を持ち込むことがあった。先月も今年の初物と言うことで実働部隊主催の牡丹鍋の会を開いて誠はそこで初めてイノシシの肉を食べた。
「どうですか?要さん」
野菜に嫌いなものが多い要は早速ソースをリアナから貰ってイノシシのとんかつを頬張っていた。
「ちょっと硬いけどいいんじゃねえか?」
そうして今度は重箱の稲荷寿司に手を伸ばす。誠もそれを見てとんかつに箸をつけた。
「野菜も食わないと駄目だよー」
相変わらずの間の抜けた声で嵯峨が蕪の煮付けに手を伸ばす。それは明らかに春子の手作りのようで、優しげな笑みを浮かべながら彼女は嵯峨に目を向ける。
「お茶!持ってきたわよ」
そう言いながらポットと茶碗などをリアナとアイシャが運んできた。ついでにこちらの様子を伺いに来た楓と渡辺がモノほしそうに重箱を囲む誠達を覗いていた。
「おう、楓。旨いぞ。食えよ」
嵯峨のその声と、柔らかに笑う春子の姿を見て楓と渡辺も部屋に入ってくる。
「はい、お皿」
そう言って小夏が紙皿を二人に渡す。
「お姉さま、このカツはおいしいですか?」
そう言って要を見つめて微笑む楓だが、要は無視を決め込む。
「引き締まっていて味が濃いな。豚のカツも良いがイノシシのにもそれなりの味があるぞ」
カウラの言葉に頷くと楓は箸をイノシシカツに伸ばした。