突然魔法少女? 123
「母さん……お母さん……」
肩を震わせて腕の中で泣いているカウラの緑色のポニーテールを撫でる誠。だがシーンはすぐに別のところに切り替わる。
シャムと小夏は爆発したメイリーン将軍のいた場所を調べていた。
「これ……」
そう言って小夏が取り上げたのは一輪の真っ赤な薔薇の付いた小枝だった。
『おい!なんであの爆発で?ちょっとおかしくない?上級者過ぎるだろ!』
誠は引きつりそうになる頬を震わせてカウラを抱きしめている。だが、一抹の不安を感じて振り向くとブーツが目の前にあった。
顔面にめり込んだロングブーツの甲に跳ね飛ばされてカウラを置いたままぶっ飛ばされる誠。蹴り飛ばしたのはレザースーツに身を包んだ要ことキャプテンイッサーこと私立探偵西川要子役の要だった。
『なんで……こんな……』
バーチャルシステムでなければ完全に首が折れていた蹴りに顔と首を押さえながら立ち上がる誠。
「こいつはすまねえな」
そう言ってにんまりと笑いながら泣き崩れていたカウラをにらみつける要。役を忘れて要をにらみ返すカウラ。
「お姉さん……これ」
そう言って小夏とシャムがカウラに先ほどの薔薇の小枝を渡す。しっかりと枝を手に取り涙するカウラ。
「機械帝国の鬼将軍と呼ばれたメイリーン将軍。あっけない最後だったな。自分の作った魔人に裏切られるとは。まあ魔人なんぞの下級生物を使う奴らしい最後と言えるか……」
そう言った要に平手を食らわすカウラ。
「それだけ?あなたはそれだけなの?お母さんは殺されたのよ!それに下級生物?あなたは所詮機械なのね!人の心なんて分かりもしないくせに……」
『おいおい、なんで要さんが機械帝国とつながってること知ってるんだよ!おかしいだろ?さっきまでシャムさんと小夏が魔法が使えるのも知らなかったのに!』
だがそんな突込みをするまでも無く要の表情が明らかに本心から出てくる怒りで満たされているのが誠にも分かった。本物のサイボーグである要。彼女を機械呼ばわりする台詞は初めからあった。カウラはそれを正確に読んだだけだった。それでも要の逆鱗に触れたことだけは誠も分かる。そのまま誠は引きつった笑いを浮かべながら二人の合間に立った。
「止めるんだ!二人とも。そんなことをしても春子さんは帰ってこないんだ!」
『まあこれはお話だけどね。要さんもカウラさんも熱くなり過ぎよ』
淡々と役を終えて茶々を入れる春子。
『お母さんは黙って』
『ハイハイ』
急に怒りをみなぎらせていた要が噴出した。家村親子のやり取りがつぼに入った、そんな感じだった。さすがにここはアイシャか吉田が止めるだろうと誠は思ったが二人はそのままシーンを続けることを選んだようだった。
「そうね、私にもできることがあれば協力するわ。それよりあなたは誰?」
カウラの一言で全員の目が点になる。
『知らないでびんたしたんですか?ちょっと順番間違えてませんか?』
まだ止まらないシーンに呆れながら誠はカウラと要を見ていた。
「私はこの子達と志を同じくする者。機械帝国を滅ぼすための正義の使者。キャプテンシルバーとは私のことよ!」
「あっ。ダサ!」
「おい!小夏!今、何言った?何言った?え?」
要の叔父の嵯峨譲りのネーミングセンスの無さには定評があるが、こうして要の口から出てくるとさらに違和感が漂っていた。小夏は変身を解かずに鎌を掲げて要との間合いを詰めようとする。それを見た要は右手に持っている小さな紐を掲げる。
銀色の光とともにビキニの水着のようにも見える体と西洋の甲冑を思わせる兜をかぶったキャプテンシルバーの姿に変身する要。手には銀色の鞭が握られている。
「お?やろうってのか?外道!」
そう言って小夏も鎌を構える。
「二人とも!喧嘩は駄目だよ!」
シャムが慌てて二人の間に立った。小夏は手にした鎌を消して普通の中学生らしいセーラー服に戻る。要も鞭を納めて革ジャンにジーンズと言う普段の要と同じ格好に戻った。
「じゃあ後で訓練を施してやろう!お前も一緒にな!」
そう言ってすぐに手を胸の前でクロスして魔法を使って消える要。誠はただ目の前の出来事を呆然と見つめているだけだった。