突然魔法少女? 120
「それじゃあ、はじめるわよ。カウラ、誠ちゃん。準備お願い」
そう言って目の前のカプセルを指差すアイシャ。その隣でニヤニヤと笑うシャムとラン。ここがこの物語の役でいう所のヒロイン姉妹南條シャムと南條小夏の腹違いの姉、南條カウラと神前寺誠一のデートの場面だと誠にも分かった。
「ちょっと待って、アイシャさん。誠君凄く顔色悪いじゃないの」
春子のその一言は非常に助かるものだった。誠は天使を見るように春子を見つめる。だが、春子は手にしていた袋から一つのオレンジ色のものを誠に差し出した。
「あのーこれは?」
「干し柿よ。二日酔いには効くんだから。アイシャさんもさっき食べてたわよ」
手にした干し柿にため息をつく誠。逃げられない以上、多少は時間を稼ごうとゆっくりと手にした柿を口に運ぶ。
「はい、誠ちゃん!ちゃっちゃと食べる!それと春子さんと……」
「ごめんね!遅くなっちゃって!」
どたばたと入ってきたのは運用艦『高雄』艦長鈴木リアナ中佐だった。部下のアイシャに頭を下げながらあわててカプセルに頭をぶつける。
「痛いのー」
「お姉さん、あわてなくて良いですよ。まだ隊長も来ていませんから。誠ちゃん!覚悟を決めて!」
アイシャの声に押されて仕方なくカプセルに入る誠。かぶったバイザーの中には大きな川の堤防の上、見晴らしの良い光景が広がっていた。
風にエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせるカウラ。誠はその姿を見て胸が熱くなるのを感じた。
『それじゃあ行くわよ!スタート!』
アイシャの声に肩を寄せ合ってカウラと誠は歩いていた。秋の堤防沿いを歩く二人にやわらかい小春日和の風が吹く。
「久しぶりね、こうして二人で歩くの」
そう言いながら髪を掻き揚げるカウラ。誠は笑顔を浮かべながらカウラを見つめていた。
「そうだね、いつまでもこういう時間が続けばいいのにね」
そう言って歩く二人に高笑いが響いた。明らかに乗りに乗っている技術部部長許明華大佐の声である。
『あの人意外とこういうこと好きなんだな』
そう思いながら身構える誠。目の前に黒い渦が浮かび上がり、そこにいかにも悪な格好の機械魔女メイリーン将軍こと許明華大佐と緑色の不気味な魔法怪人と言った姿の物体が現れた。
「逢瀬を楽しむとはずいぶん余裕があるじゃないか!マジックプリンス!そしてその思い人よ!」
そう言って杖を振るう明華の顔がやたらうれしそうなのを見て噴出しそうになる誠だが、必死にこらえてカウラをかばうようにして立つ。
「何を言っているんだ!」
ここではカウラは誠の正体を知らないと言う設定なのでうろたえたような演技で明華を見つめる誠。
「なに?どう言う事なの!誠一さん」
カウラが誠にたずねてくる。しかし、そのカウラも明華の隣の魔法怪人が顔を上げたことでさらに驚いた表情を浮かべることになった。
「お母さん……」
緑色の肌に棘を多く浮かべた肌、頭に薔薇の花のようなものを取り付け、その下に見えるのは青ざめた春子の顔だった。
「オカアサン……ウガー!」
そう言うと地面から薔薇の蔓を思わせるものが突き出てきて誠とカウラの体を縛り上げる。
「残念だな南條カウラ!貴様の母はもう死んだ!今ここにいるのは魔法怪人ローズクイーン!機械帝国の忠実な尖兵だ!」
いかにもうれしそうに叫ぶ明華に呆れつつ誠はカウラを助けようと蔓を引っ張って抵抗して見せた。