突然魔法少女? 113
「やるもんだな……」
肩で息をしてシャムの桃色に輝く杖に受け止められた剣を腰の鞘に収めるラン。その赤いドレスはぼろぼろに破れ、頬にはいくつもの傷が見て取れた。
「ランちゃんもね」
同じく魔法少女の衣装をぼろぼろにしながら杖を掲げるシャム。そのまま息を整えながら二人は上空で見詰め合った。
『青春だねえ』
突然抜けたような声が響いたので誠は驚いた。いつの間にか会議室に紛れ込んでいた嵯峨がウィンドウ越しに割り込んでくる。
『惟基さん。良いんですか?お仕事は』
春子の言葉に誠もいくつか付け足したい気分だった。
『ちょっとくらい匿ってくれたっていいじゃないですか』
『サボるな!』
女性としてはハスキーな張りのある声。それが遼州同盟司法機関特務実働部隊、通称『特務公安隊』隊長の安城秀美のものであることは誠にもすぐに分かった。昨日同盟本部に法務司法執行機関および治安関係団体幹部会議を『頭が痛い』と言って欠席して隊長室で刀を研いでいたところは誠も目撃していた。
『春子さん、嵯峨特務大差はお借りしますから』
『どうぞご自由にお使いください』
春子に見放されて落ち込んでいるだろう嵯峨の顔を想像して思わず笑いそうになる誠。再び誠が画像に意識を向けるとすでに逃げ去ったランを見送るシャムの姿があった。
「シャム!せっかく捕まえられるチャンスだったのに!」
小夏はシャムのところまで降下すると責め立てた。でも口を真一文字に結んだシャムは謝るつもりはないというように小夏をにらみつける。
「良いじゃねえか!このくらいの気迫が無けりゃあ戦いなんてできないもんだ」
相変わらずどう見ても敵の魔女と言うか機械人間のように見える要が良い顔でシャムの頭を撫でる。
「そんなスポーツじゃないんだよ!いつかは決着をつけなきゃいけない……」
そう叫ぶグリンの口に手をやる要。
「それよりこのままにしておくつもりか?」
要はそう言うと下の光景を見下ろした。グリンだけでなくシャムも小夏も眼下の光景を眺めた。神社と小学校の木々の頭の部分が焼け焦げ煙を揚げている。一方ランが突風を吹かせた影響で小学校のガラスがすべて砕けて無残な姿を晒していた。
「分かりましたよ!後で明石司令に報告します!」
そう言うとグリンは両手を広げた。彼の手からあふれ出た光の粒が小学校と隣の鎮守の森を包む。木々は再び生き生きと茂り始め、小学校の砕けた窓ガラスが元に戻っていく。
『これは凄いな』
『え?カウラさん来てたんですか?』
突然のカウラの声に少しばかり焦る誠。次のシーンは明石の喫茶店に誠に会いにカウラがやってくる場面になるはずだった。
画面では小学校の屋上に舞い降りてもとの制服姿に戻るシャムが映されていた。
『おい、アイシャ。ちょっといろいろといじりたい場面があるんだが……少し休憩ってことにならないかな』
吉田の声が響く。
『そうですか、じゃあしばらく休憩しましょう』
映像関係の責任者の吉田の一声で、バイザーの中に映っていた画面が消える。誠はそのままヘルメットを外してカプセルから起き上がる。
「あー疲れた……あっ!食べちゃったんだ!ずるいんだ!」
いち早く飛び上がるようにして起きていたシャムが入り口に置かれたおはぎが入っていた重箱を指して膨れっ面をしている。
「だって硬くなったらもったいないじゃない!」
そう言って重箱に蓋をしているサラ。その脇ではシャムの怒っている姿が面白いのか、珍しくニコニコ笑いながら明華と明石が口を動かしている。
「よし、それじゃあ仕事に戻るぞ」
そう言うとカウラは誠の襟首をつかむ。シャムとサラ達がにらみ合っている状況を見物していた誠は要の手を引っ張って会議室から廊下へと歩き出した。