突然魔法少女? 11
それから同じように途中まで進んでは戻ると言う動作を三回繰り返した後、ようやく車はいつものコイン駐車場に到着した。
「カウラちゃんて……結構頑固よねえ……」
助手席から降りたアイシャが伝説の流し目でカウラを見つめた。カウラはとりあえず咳払いをしてそのまま立ち去ろうとする。
「おい!鍵ぐらい閉めろよ。それとも何か?お前も今のアイシャの流し目でくらくらきたのか?」
後部座席からようやく体を引っ張り出した要が叫ぶ。その言葉を口にしたのが要だったことがつぼだったようでアイシャは激しく腹を抱えて笑い出した。以前、楓がこの流し目を見て頬を染め、それからはすっかり要と並ぶお姉さまの一人となっていることが彼女の流し目を『伝説』と呼ばせることになった。カウラはあわてて車のキーを取り出して鍵をかける。
そのまま造花とちょうちんに飾られたアーケードの下を進む四人。いつもの保安隊のたまり場、小夏の実家のあまさき屋とはとは逆方向の市民会館に向かって歩く。そしてフリーマーケットの賑わいを通り過ぎた先にどう見ても怪しい集団が取り巻いている市民会館にたどり着いた。市民会館の周りにいるのは地元の子供達ではなかった。
年は30歳前後が一番多いだろう。彼等は二種類に分類できた。
一方は迷彩柄のポーチや帽子をかぶり、無駄に筋肉質な集団。そしてもう一方はアニメキャラのプリントされたコートなどに身を包む長髪が半分を占める団体である。
「おい、アイシャ。お前どういう宣伝をやったんだ?」
ものすごく不機嫌そうな顔をする要。アイシャはただニヤニヤと笑うだけで答えるつもりは無い様だった。そのまま彼らから見つからないように裏口の関係者で入り口に向かう。そこにはすでにシャムが到着していた。
いつものように東和軍と共通のオリーブドラブの制服。そして帽子だが、シャムの帽子には猫耳がついている。
「お前も相変わらずだなあ……」
呆れながら声をかける要を見つけるとシャムはそのまま中の通路に走り出した。
「おい!アイシャ!これ!」
そう言ってゴスロリドレスを着込んでステッキを持った少女がめがねをアイシャに渡す。
誠が眼をこすりながら見るとその少女はランだった。その鋭い目つきは明らかにこの格好をさせられていることが気に入らないと言うようにぎらぎらと輝きながら誠達を威圧した。そしてアイシャがめがねをかけると一気に爆発したようにしゃべりだした。
「おい、アイシャ!あの連中はなんだ?アタシは子供達が楽しむための子供向け映画だから出るって言ったんだぞ!それになんでこの格好で舞台挨拶しろって……オメー!なんかたくらんでるんじゃねーのか?」
そう言って食って掛かろうとするランだが、アイシャはランの頭を馬鹿にしたように撫でている。
「馬鹿野郎!アタシの頭を撫でるんじゃねー!」
「だってかわいいんだもの。ねえ!」
そう言って今度は誠に話題を振ってくる。
「まあ、ネットで人気投票やったらクバルカ中佐の格好が一番好評だったんで……まあ魔法少女モノですとライバルキャラが人気になるのはよくあることですから」
誠のフォローは何の足しにもならなかったようで、ランは誠の鳩尾に一撃した後そのまま奥へと消えていった。