突然魔法少女? 107
「でもカウラお姉ちゃんは知ってるの?」
目の前に出されたオレンジジュースを飲みながら誠を見つめるシャム。
「実は……」
その言葉に思わず誠は口を開く。そんな彼を明石が抑えた。
「魔力を持たない人に無用な心配をかけないほうが良い」
頭を振って明石はそう言うと小夏にホットミルクを差し出す。
「確かにそうかもね。カウラお姉さんは一途だからきっと無茶をするわ」
「小夏お姉ちゃん!でも何も知らないでいるなんて!」
シャムはストローから口を離して明石と小夏に向かって叫ぶ。
「それに誠一お兄ちゃんいいの?何も知らないで好きな人が戦いに赴くなんて私はやだよ!」
そう言うシャムが演技と言うより本音を言っているように見えて誠は地で微笑んでしまった。
「いつかは言うつもりさ。彼女は察しがいいからな、いずれ気づくはずだ。でもしばらくは時間が欲しいんだ」
そう言ってコーヒーを啜る誠。彼の言葉に頷きながら小熊のグリンはシャムを振り返る。
「シャム、僕達の戦いは一人の意思でやっているわけでは無いんだ。機械帝国は全世界、いや異次元も含めた領域を支配をしようとしているんだ。個人的感情ははさまない方がいい」
「でも……」
「なら君の協力は必要ない。普段の生活に戻りたまえ」
そう言ってカウンターから飛び降りるグリン。
「どうするつもり?一人で戦うなんて無理だよ」
悲しそうに叫ぶシャムの肩にやさしく手を伸ばしたのは明石だった。
「いつかはシャムにも分かる日が来るはずだ。今は黙っていておいてあげてくれ」
そう言うとにっこりと笑う明石だが、その表情が明らかに無理をして作り出した硬いものだったので誠は思わず噴出しそうになるのを必死でこらえた。
「分かった。でも私達だけで戦える相手なの?」
「ふっ、子供の癖に戦況の分析は得意のようだな」
そんな女性の声が聞こえた後、部屋にハーモニカの旋律が響く。
「誰だ!」
明石のはいつの間にか開いていた窓に身を任せている革ジャンを来たテンガロンハットの影に向かって叫んだ。
「危ないところだったな。私が機械帝国の手先の時代なら貴様等の命はすでに無かった」
そう言ってジャンプして誠達の前に現れたのは前のカットでぼろぼろにされていたイッサー大尉役の要の姿だった。
『こてこてだよ!たぶん要さんはかっこいいつもりなんだろうけど……これじゃあ爆笑モノだよ』
そんな誠の心の叫びを無視して立ち上がるとハーモニカを吹き始める要。
「機械魔女イッサー大尉。君が来てくれたのか!」
誠はとりあえず台詞を言った。要はハーモニカを吹くのをやめ、手にしたテンガロンハットを入り口にある木製の帽子掛けに投げる。それは静かに宙をまい、みごとに帽子掛けに収まった。
そして素早く誠の前に立つと誠のあごの下をつかんで顔を上げさせる。
「私は必ず借りは返す主義なんだ。力ならいくらでも貸すつもりで来た」
そう言ってにやりと笑うが、タレ目の要がそう言う表情をするととても色っぽいことに誠は気がついて頬を染めた。