突然魔法少女? 106
「お姉ちゃん!早く!」
「でも本当に良いの?あれ、誠一お兄さん」
明らかに明石と誠の姿に戸惑っている小夏。
「やあ!」
自分でもこういうさわやか系のキャラはできないと思って笑顔が引きつる。設定では遠い親戚で大学に通うために彼女の家に下宿しているという無駄な設定がある割には引きつっている自分の頬に冷や汗をかいた。
『こういう役なら島田さんにでも頼んでくれよ』
心の中では明らかにすべる光景が想像できて誠の頬がさらに引きつる。
「大丈夫だよ!間違いないから」
「シャム!そう簡単に大丈夫なんて言わない方が良いよ。それに呼んだのはあの頭の……あっ」
つい禿と言おうとしたことに気づいて口に手を当てる小夏。明石は余裕のある笑みを浮かべてみせる。いつもは『大将』だの『兄貴』だのと持ち上げている明石を禿呼ばわりしたことが相当気まずいようで小夏はうつむいたまま店内に入ってきた。
「いらっしゃい、お嬢さん達。そして小熊さん」
「ばれていましたか」
そう言うとシャムのランドセルから頭を出すグリン。しばらく頭を出して明石を見つめていたが、グリンはすぐに苦しそうな顔でシャムを見つめた。
「シャム!できればランドセルを開けてもらいたいんだけど……」
「ごめんね!」
そう言うと椅子に赤いランドセルを下ろしてふたを開ける。そのままカウンターに上った手のひらサイズの小熊のグリンが不思議そうに誠を見つめた。
「もしや……あなた様は……」
「久しぶりだね、グリン」
誠がそう言うとグリンは平身低頭した。その様にシャムと小夏が驚いているのがわかる。
「神前寺さん……もしかして知っているんですか?グリンのこと。でも何で?」
小夏が神前寺誠一役の誠とグリンを不思議そうに見比べている。
「小夏ちゃん。この人が魔法の森の王子『マジックプリンス』様だよ!」
グリンの言葉に一瞬素に戻る小夏。その目は明らかに誠を見下しているような色を湛えていた。だが隣に師匠と仰ぐシャムの演技と言うよりただ単に楽しんでいる姿を見て役に戻る。
「それじゃあこのおじさんも……」
「そうだよ。彼が僕をかくまってくれていてね。君の家にお世話になるのにもいろいろ手を尽くしてくれたんだ。そして機械帝国の脅威を知って協力をしてくれることになっているんだ」
誠の言葉に時々呆れている地を見せながら小夏が明石を見上げた。
「お二方、飲み物は何にする?」
相変わらず変なイントネーションでしゃべる明石。
「じゃあ私はオレンジジュース!」
「シャムったら遠慮くらいしなさいよ!」
シャムがうれしそうに叫ぶのを止めようとする小夏。いつもの光景が展開されて誠は噴出しそうになった。
「いいんだ、気にしないでくれたまえ。これからは一緒に戦う仲間になるんだから」
「神前寺さん、いや殿下の言うとおりだ。僕もいずれは連絡を取らないといけないと思っていたんだ」
グリンの言葉に不信感をぬぐいきれないもののこれ以上意地を張れないと思ったように小夏がカウンターに座る。
「じゃあお嬢さんは……」
「ホットミルクで」
つっけんどんに答えた小夏に笑みをこぼすと明石は飲み物の準備を始めた。