突然魔法少女? 104
目の前が暗くなり一幕が終わったことを告げる。
「あのー、アイシャさん?」
恐る恐る誠はしゃべり始める。一応、アイシャは上官である。しかも自分が面白いと感じたら絶対に譲らない彼女である。
『はい、なんでしょう?』
サブモニターに映る満面の笑みのアイシャ。
「僕の格好ってこんなに間抜けでしたっけ?」
その言葉にアイシャの笑みが大きく見える感覚に誠は囚われた。
『ああ、それねデザインしたのはシャムだから』
あっさり答えるアイシャ。後ろでガッツポーズをするシャム。周りでは運行部の女性隊員が拍手をしていた。
『良いんだよ、どうせやるのはお前さんなんだから。まあ一部ぶーたれてる奴もいることだしさ』
「吉田さんまで……」
誠はこのまま部屋に帰りたくなったが、帰ればカウラと楓による血の制裁が待っていると気づいて踏みとどまった。
『じゃあ次は女将さん……いえ、春子さんの場面ね』
アイシャの声に誠は興味を引かれた。
春子の役、魔獣ローズクイーンのデザインは誠がしたものだった。はっきり言って悪ふざけに過ぎたと自分でも思える。頭に薔薇の花のような冠を被り、両手から蔓のような鞭が生え、全身が緑色の素肌のような格好にところどころに棘が映えた姿。正直、エロゲ系RPGの敵モンスターみたいだなあと思いながら書いた落書きをどうアイシャが使うのか予想が付かなかった。
そして画面が開く。中央で腕組みをして人が入るほどの大きさの透明なカプセルを見上げる明華。顔のアップでの怪しげな笑みに誠は背筋が寒くなるのを感じた。
『うちの女性陣は何でこういう悪役やらせると映えるのかな』
これは絶対に口にはできないと思いながら誠は目の前の光景を眺めていた。
『ふっ。やはり所詮は出来損ないの試作品か。まあいい時間稼ぎになっただけましというところか……』
明華はそのまま目の前のカプセルを見上げた。そこには全裸の女性のようなものが入っていた。
『え?』
誠は目を疑った。それは彼がデザインしたまんまの魔獣ローズクイーンの姿だった。ローズクイーン役の春子は眼を開き、これもまた悪そうな笑みを浮かべて明華を見つめる。
『やっぱ怖いよ、うちがらみの女の人!』
冷や汗を流しながら誠は画面を見つめる。
『さて、あとはあのはねっかえりの王女様がどれだけの成果を上げるか、楽しみだねえ。貴様もそう思うだろ?』
再びとてつもなく悪そうな笑みを浮かべる明華。それに答えるようにして春子が舌なめずりをしている。そして再び画面が暗くなった。
『アイシャちゃん、こんな感じで良いの?』
うれしそうにアイシャに演技の感想を尋ねる春子。モニターにその姿は映ってはいないが彼女が非常に楽しんでいることだけは誠にもよく分かった。
『お母さん凄い!私達もがんばりましょう!師匠!』
『当然よ!』
小夏とシャムが割り込んでくる。誠はただカウラと楓の制裁が怖くてじっとして周りの人々から忘れられようと気配を消していた。