突然魔法少女? 102
しばらくの沈黙。
腹の中がおはぎで満たされた誠は窓から注ぐ秋の柔らかな日差しを見ながらゆったりと伸びをした。安心できる冬のからりと晴れた青空が窓越しに心地よい日差しをくれた。隣の席ではカウラが頬杖を付いて端末のモニターをいじっている。
「ようやく静かになりましたね」
そう言いながら楓はうどんを啜っていた。彼女が意外と麺類好きであるということが最近判明している。誠も彼女が二回に一度は買出しの連中に麺類を頼むことを知っていた。
「でも嵯峨少佐は本当に麺類が好きですね。昨日はたぬき蕎麦……しかも冷やし」
話題を振った誠にうどんをかみ締めながら頷く楓。
「まあな、胡州軍では麺類は絶対に出ないからな……縁起が悪いんだそうな」
楓の語気が強くなる。渡辺も大きく頷く。
麺類と言えば遼南帝国と遼州星系では言われている。先の地球との大戦では戦闘中だろうが平気で戦闘をやめてうどんをゆでたと言う都市伝説があるほど、うどんとの組み合わせで語られる遼南。その同盟国として苦戦を強いられた胡州軍にうどん禁止と言うような風潮があってもおかしくないと思いながら、乾いた笑いを浮かべて誠は消えている画面を戻そうとキーボードを叩いた。
まるで反応がなかった。
仕方なくリセットしてみる。それでも反応がない。
「あれじゃないか?西園寺の奴が設定まで変更したとか」
焦ってぱちぱちとリセットボタンを押す誠の姿を見てカウラがそう言った。
「そうすると西園寺さんじゃないと直らないってことですか?」
泣きそうな顔でカウラを見つめる誠の目の前でカウラは大きく頷いた。
他に策はなかった。嵯峨の長女で法術特捜本部の部長、嵯峨茜警視正。穏やかなお姫様らしい雰囲気とは正反対に厳格な上司である彼女が書類の提出期限を延ばしてくれることなど考えられなかった。
「じゃあ行ってきます」
そう言って誠は詰め所を後にした。
廊下に出ると相変わらずあの撮影をしている第四会議室の前では運行部の女性士官達が雑談をしていた。
「ああ、アイシャ来たよ。誠ちゃん、来たから!」
その中で明らかに一回り小さいシャムが、いつものように猫耳カチューシャをつけた状態で誠に手招きをしている。
「ナンバルゲニア中尉、一体……」
誠はそのまま急に歓迎ムードになった女性士官達の前をシャムに引っ張られて部屋に入った。
「おう、来たか」
そう言って首の周りにいくつもの配線をまわした首輪のようなものをつけた吉田がキーボードを叩く手を止めて誠を見つめる。
「あれ?昼休みじゃないんですか?」
「なに間抜けなこといってるんだよ。こう言う人様にあまり顔向けできない仕事はさっさと片付けるに限るだろ」
そう言いながら吉田がキーボードを叩くと再び目の前のカプセルのふたが開いた。先ほど誠が入ったカプセル。それを指差しながらニヤニヤ笑う吉田。
「またやるんですか?」
誠は恨みがましい目を吉田に向けた。
「どうせあっちで見てたんだろ?この中に入ってみてても同じじゃないか」
吉田と目配せをしたシャムが誠にヘルメットをかぶせる。仕方なく誠は顔まで覆うヘルメットを再びかぶるとカプセルの中に寝転がった。