突然魔法少女? 101
「技術部の連中にも分けてやれば良いのに」
モニター越しに顔を出す楓。そんな彼女にアイシャは首を振る。
「だめよ、明華のお姉さんが許すわけないじゃないの。ヨハン減量月間が発動してからは技術部とマリアの姐御の警備部は勤務時間中の間食禁止令が出ているじゃない」
先日の健康診断で技術部一の巨漢のヨハン・シュペルター技術中尉以下三人の血糖値異常のの結果が届いた。それをを見た明華は警備部部長マリア・シュバーキナ少佐と組んで技術部と警備部の勤務中の間食の禁止を指示した。実働部隊や管理部の面々は羨望の目で見られていた。
特に空気を読まないシャムはハンガーでアイスキャンディーを食べながら歩くなど無自覚な挑発行為をして技術部整備班長の島田が吉田にシャムの監視を強化するように申し入れをしていたのは昨日の昼時のことだった。
「ああ、許大佐は……一度決めたら結構そう言うところは締めるからな」
そう言いながら明らかに無理そうな顔をしながらおはぎを飲み下すカウラ。アイシャはと言えば先ほどまで嫌がっていたはずなのにおはぎの最後の一つを手にとって頬張っている。
「それにしてもいつここまで仕上げたんですか、台本」
誠は渡されていた台本とかなり違う台詞や演技を思い出してアイシャを見つめた。
「ああ、昨日の晩に吉田さんと煮詰めたから。まあシャムちゃんは注文つけるだけつけたらとっとと寝ちゃったけどね」
そう言いながら笑っているアイシャに疲労の色は見えない。
元々戦闘用に遺伝子を操作して作られたアイシャ達の体力は普通の人間のそれとは明らかに違った。事実スポーツ選手で活躍している彼女達の同胞は男女の区別のないカテゴリーのスポーツで記録を次々と書き換えていた。
「お待たせしました!」
再び入ってくる西とレベッカ。二人はそのままビニール袋を楓と渡辺に差し出す。
「ご苦労さん」
そう言って楓はすぐにプラスティックの容器にうどんを入れたぶっ掛けうどんに手を伸ばした。
「よく食べるわね。うちのところじゃシャムちゃんと小夏ちゃんだけよ、弁当頼んだの」
そう言いながらアイシャはうどんのふたを開けて中から汁を取り出している楓を驚いたように見つめている。
「午後のランニングがあるからな。クラウゼ少佐も参加するか?」
楓は素早く割り箸を口でくわえて割り、そのまま汁と麺をなじませている。
「えーと、まあなんと言うか……遠慮しとくわ」
愛想笑いを浮かべてアイシャは茶を啜る。誠もカウラもそれに付き合うように湯飲みやカップに手を伸ばした。
「しかし、さっきはあのおはぎが全部なくなるとは思わなかったんですが……」
レベッカが感心したように三段の重箱のすべてに詰まっていたおはぎを食べつくした人々見つめている。
「シンプソン中尉、そこの弁当。ハンガーで待っている連中が居るんじゃないのか?」
そんなカウラの言葉に気がついたレベッカと西。
「それじゃあ……アイシャさん、用があったら呼んでくださいね」
「ああ、そこらへんは吉田さんの裁量なんでー」
出て行く二人にやる気のない手を振る。
「それじゃあ、私も戻ろうかな」
そう言って手に痛いカップを持って立ち上がるアイシャ。
「まあ、なんだ。がんばってくれ」
複雑な表情を浮かべるカウラ。誠もまたさわやかに手を振るアイシャをぼんやりと眺めながらカップのそこに沈んだ茶葉の濃いお茶を飲みこんだ。