突然魔法少女? 100
「いつも思うんですが……私達、こんなことしていて良いんですか?」
その質問は誠の口ではなくカウラから発せられた。トレードマークのサングラスを直す明石はそのまま視線をカウラに向けた。
「なんでじゃ?」
不思議そうにサングラスの中の目はカウラを見つめる。その切り替わりに戸惑ったカウラは誠の目を見た。
「東和軍や警察からいろいろ言われてるんじゃないかって思うんですけど」
誠がそう言うと明石は快活な笑い声を上げた。
「ああ、言うとるぞあのアホ共。田舎で農業や野球やって給料もろうとるとかな。まあそう言うとる奴のどたまぶち割るのがワシの仕事じゃけ。まあ本気で殴らんで、半分は事実じゃけ」
「明石中佐。くれぐれも暴力沙汰は……」
奥の席から顔を出した楓が声をかける。
「あ、姫様。心配及びませんわ。これはいわゆる言葉のあや言うやつですわ」
そう言い放って再び笑い出す明石。だが手を出さなくても見たとおりの巨漢。そして勇猛で知られた胡州第三艦隊のエースの明石ににらまれて黙り込むしかない東和軍や警察の偉い人達の顔を想像すると誠は申し訳ない気持ちになった。
「お、おはぎ残っとるやないか。ワレ等もはよ食わんと、硬とうなってまうど。さあ、神前」
そう言って素早く自分の分のおはぎをくわえると次のおはぎを誠に差し出す明石。
「えーと……いただきます」
こわごわそう言うと誠はおはぎを受け取る。それを満足げに見ながら明石はすぐにもう一つをカウラに差し出した。
「ありがとう……ございます」
複雑な表情でおはぎを受け取るカウラ。それを見てそれまでおはぎに手を出さなかったアンが最後のおはぎを手に取った。
「やっぱり女将さんの料理はええのう。まあしばらくはこっちで年明けの査察の段取り考えなあかんからちょくちょく邪魔させてもらうわ」
そう言って明石は口の周りのあんこをぬぐうと立ち上がった。
「じゃあ邪魔したな」
明石が部屋を出て行くと今度は入れ替わりにアイシャが入ってくる。アイシャはそのままポットに手を伸ばして、手にしていた美少年キャラが裸で絡み合うと言う誤解を招きかねない絵の描かれた自分の湯飲みに白湯を注いでいる。
「甘い!甘いわよ!」
白湯を飲んですぐにそう言うとアイシャは先ほどまで明石が座っていた丸椅子に腰掛けた。
「どうしたんだ?お前は甘いものは好きだろ?」
カウラはそう言いながら急須にお湯を入れる。アイシャはそれを奪い取ると湯飲みに茶を注いだ。
「何でも限度ってものがあるわよ……ああ、こっちにも女将さんからのがあったのね。でもこのくらいなら楽勝でしょ」
そう言って空の重箱を見つめるアイシャ。
「そうでもないぞ。隊長がへろへろになったからな」
カウラの言葉、頷く楓と渡辺。
「ああ、あの人は問題外よ。でも……さすがにねえ私もこれだけあると私でもお手上げだわ」
そう言いながらアイシャは手にした湯飲みを啜った。