突然魔法少女? 10
「なにやってんのよ!こっちにちゃんとタオルあるから!」
要を見つけて叫ぶアイシャ。仕方なく要は誠から手を放すとカウラの車に向けてまっすぐ歩き始める。
「それにしても、アタシ等はセットで扱われてねえか?特にあの餓鬼!」
そこまで言ったところでランのことを思い出して、右手を思い切り握り締める要。
「まあ良いじゃないの。あのおちびちゃんも要ちゃんを注意することでなんとか威厳を保っているんだから。それより誠ちゃんさっきので制服の袖、油臭くなってない?」
そう言いながら誠の腕を持ち上げるアイシャ。
「油ってなんだよ?アタシはロボか?」
いつもなら食って掛かるところだが、要は黙ってカウラのスポーツカーの後部座席に乗り込んだ。
「殴らないのか?」
カウラはそう言いながら誠とアイシャが乗り込んだのを確認するとエンジンをかける。
「餓鬼とは違うからな」
そう言いながらシートベルトを締める要。確かにランが正式配属になった去年の晩秋から、要が誠を殴る回数は確実に減っていた。車は駐車場から出て、石畳の境内をしばらく走った後、駅に続く大通りに行き着いた。
「いつものコインパーキングでいいでしょ?」
そう言うアイシャに頷くカウラ。
「市民会館か。そう言えばあそこはアタシは行ったことねえけど……どんなだ?」
そう言って後部座席の隣に座っている誠を見つめる要。
「普通ですよね、アイシャさん」
誠の言葉に頷くアイシャ。それを見てカウラが怪訝そうな顔をする。
「カウラ誤解すんなよ。こいつ等のアイドル声優のコンサートチケットをアタシが確保しておいたことがあっただけだよ。それに当然シャムと小夏も一緒だったからな」
ハンドルをカウラが握っていると言う事実が要を正直にした。節分の祭りを見に来た観光客でごった返す駅から続く道を進み、銀座通り商店街を目指す。
「そう言えば今日は歩行者天国じゃないの、市民会館前の道」
そう言うアイシャにカウラはにやりと笑みを浮かべる。いつもの道の手前で車を右折させ路地裏に車を進める。
「このルートなら大丈夫だ。普段は高校の通学路で自転車が多いから使わないんだがな」
車がすれ違うのが無理なのに一方通行の標識の無い路地裏を進む。アイシャと要はこれから起きることが予想できた。
軽トラックが目の前に現れる。これがキムの車なら楽にすれ違えただろう。あいにくカウラの車は車幅のかなりあるスポーツカーである。カウラはため息をつくとそのまま車をバックさせた。軽トラックのおじいさんはそのまま車を近づけてくる。
結局、もとの大通りまで出たところで軽トラックをやり過ごした。
「大回りすればいいじゃないの……」
呆れたように言うアイシャだが、意地になったカウラは再び車を路地へと進めた。