十五
「実は…………」
「うんうん」
「……………………やっぱり止めておきます」
「ええーっ」
五葉は思い直した。
見た目が白菊にそっくりだから、うっかり頼りになるかもしれないと勘違いしたことを反省した。
この子は『影』に過ぎない。
しかも、相当お気楽な軽業娘に戻ってしまっている。
それなのに危うくまたしゃべってしまうところだった。
近頃自分はどうかしている。
そう思うと、さらに落ち込んでしまった。
噂を知った土岐野は、眉をひそめた。
召使い頭を呼んで叱り付けようかとも考えたが、対応を間違えれば、火に油を注ぎかねない。
代わりに謙介を呼んだ。
「あらぬ噂が立っているのを知っておろう。調べよ」
謙介は顔を上げ、落ち着いて答える。
言われるまでもなく調べていた。
「昨日、牛車のお礼に行くとおっしゃって、側近の伊織様をお供に馬でお出かけになりました。
遅くなったら泊めてもらうと、門番にも言い置かれたそうでございます。
そして今朝、何事も無く戻ってこられました。
ご様子に変わりは無かった。それだけのことにございます。
何者かが、悪意で流した噂と考えられます。
微に入り細を穿つ事細かな描写で、いかにも下賎な興味を引く話になっており、広がり方が異様に早いのも、そのせいでございます」
伊織が一緒だというなら、事実無根に違いない。
あの素っ頓狂が付いていれば、妖しい雰囲気になりようが無いだろう。
「して、出所は」
「おそらく……」
土岐野にも、思い当たるふしはあの母子しかなかった。
もちろん、白菊の耳に入れるつもりは無い。
しかし、あらぬ噂に浮き足立っている家中の様子を隠しおおせる自信もなかった。
白菊は些細な変化にも敏感だった。
いつも知らせる前に問い詰めてくる。
土岐野は頭が痛かった。
ところが翌日、それどころではない事件が起こる。
第四章が終わりました。
次は、もちろん第五章です。




