十
かくして、二人を乗せた牛車は、檜笠を被る痩せた牛飼いに引かれて、南東の国司館に向けて ゴトゴトと出発した。
鳥座惣右衛門、達磨坂栗右衛門、平題箭謙介と喜谷部伊織が馬で後ろに付く。
「気持ちいいお天気だね。
ねえ、綺羅君は本当に調べているのかなあ。
ちっともそうは見えないんだけど」
牛車の中は二人きりだ。
周りを気にすることなく話ができる。
さっそく、鹿の子は気になっていることを訊いてみた。
「千種という人のことが分かったようだよ」
「すごい。悪いけど、本当にできるとは思ってなかった。どんなことが分かったの」
「親戚ということになっているが、先代様が外に作った娘らしい。
奥方様が亡くなり、相次いで千種の母親も亡くなった時に、屋敷に引き取ったようだ。
紅王丸が幽閉されてからは、一人で世話をしていたらしい。
ちなみに今は、五葉という侍女が食事を運んでいる」
「へえ、誰から聞いたんだろ」
「先ごろ馘になった、飯炊きのばあさんから聞き出したらしい」
それを聞いた鹿の子は、自分が馘にしたことをうっすらと思い出した。
しかし、あれは綺羅君のせいだ。
よくも図々しく聞き出せたものだ。どうやったんだろう。
「千種さんは、何故おかしくなっちゃったの?」
「そこまでは分からない。
だが、千種が亡くなる半年ほど前に、白菊が怪我をして臥せっていた時期があるというから、火傷をしたなら、その時だろう。
それ以後、御簾で隠すようになっている。
千種も、その頃から人前に出なくなったそうだ。
屋敷を出たのではないかという話もあったらしい」
「ちゃんと調べてる。関心関心。肝心の紅王丸様のことは?」
鹿の子にとって大事なのはそこだ。
「元飯炊きばあさんは、土蔵に閉じ込めたのは千種だと思っているようだ。
幽閉されてからの紅王丸君の事は、千種が一切を取り仕切って、他の人間の目には触れなくなった。
そこから推量したのだろうが、確かなことは分からない。
調査中だそうだ」
「……ふうん。あたしは孤児だから分かんないけど、腹違いでも弟だよねえ。
閉じ込めたりするかなあ。だって心の病でもなんでもないんだよ」
白菊として人前に出るようになってから、紅王丸に会いに行くことが難しくなってしまった。
会いたかった。綱渡りも見せたかった。
「特別な恨みでもあれば、有り得ん話でもない」
「綺羅君様に調べられるんだろうか」
鹿の子は、綺羅君がどこまで役に立つのか、信用しきれていない。
人間は、日ごろの行いが大切だ。




