表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれないの影  作者: しのぶもじずり
第一章 次嶺経(つぎねふ)は山また山
4/69


十六夜(いざよい)朧月(おぼろづき)が、今は何も無い舞台を照らしていた。

夜露が湿って、何処からか草の匂いを漂わせてくる。


がらんとした舞台の端っこに腰をかけて、足をぶらぶらさせているのは隼人だった。


「こんなところで何をしている。冷えるぞ」

さりげなく声をかけたのは藤伍だ。

隼人は揺らせていた足を止めるが、うつむいて黙ったままだ。

藤伍は自分が羽織っていた厚手の半纏(はんてん)を脱いで掛けてやり、隣に腰をかけた。


「悩みの多いお年頃ってか。困ってることがあるなら、男同士相談に乗ろうじゃないか」

「……うん。おいら才能ないのかなあ」

「なんだ、そんなこたあないぞ。なかなかすじがいい。

体も柔らかいし、勘も良い。拾い物だと思っているぞ」


孤児の隼人は、文字通り一座に拾われた。

「じゃあ、何で鹿の子に追いつけないんだ。おいら男だぞ」


「ははあ、そういうことか。気にしなくて良い」

鹿の子と隼人が組んで、とんぼをきったり宙返りをしたりと、跳び回る芸を披露する。

綱を張る場所があれば綱渡りもしてみせる。

かわいらしい容姿の二人は人気者だ。


この二人を仕込んだのは鉄次という男だ。

商売換えして最初に入った軽業師だ。

今は引退して一座を抜けている。

体を作る基礎訓練では、鹿の子は苦労した。

軽業をさせるのは無理かもしれない、と誰もが思った。

少しやらせてみて駄目なようだったら、別の道を考えてやらなくてはと藤伍も腹積もりをしていた。


ところが、実際に技を教えはじめると見る見る上達したのだ。

これには皆あっけにとられた。

鉄次が目の前でやって見せる技を次々とこなす。


後から入った隼人は元々身が軽い。

基礎訓練を難なくこなした。

だが、技を覚えるには、一つ一つ稽古けいこに稽古を重ねて身に着けていくしかない。

隼人も決して不器用なほうではない。

むしろ普通の人間よりよほど軽業に向いている。

鹿の子が普通ではないのだ。


つい先だって、隼人は、自ら思いついた新しい技を編み出した。

身軽な体を生かした工夫で、鹿の子には無理だろうと得意になって見せたのだが、じっと見ていた鹿の子はすぐに真似をした。

考え付いた自分が、あれほど苦労してやっとできるようになったというのにと思うと、情けなくて落ち込んでしまったのだ。

「…………気にする」


「鹿の子は特別だ。おまえ、技を見ているときの鹿の子の様子に気が付いてないか」

「ぼうっとしている。おいらなんか、目を皿のようにして必死に見ているのに、鹿の子はぼんやりして、見ているのか見ていないのか分からない。だから口惜しい」

隼人は、さらに肩を落とす。


「おまえは聞いたことがないのか。俺は鹿の子に聞いてみたことがある。

どうやって、あんなに早く技を覚えるんだってな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ