五
「白菊やー ああ 白菊や 白菊や
もっと虐めて 縛ってぶって あは~~ん 字余り」
「わざわざ…… 字余り……。
うむむ、『あは~~ん』を、どうしても入れなくては駄目なのでしょうか」
伊織が隣りで真剣に指を折り、字数を数える。
陽映は思わず爆笑したが、『姫』は爆発寸前だった。
これは、どう考えても大失敗だ。
乙女が笑えるネタではない。およそ限度を超えている。
やはり人選を間違えたというしかない。
笑えない。
『姫』は―― 鹿の子は、いや、白菊の『影』は、こめかみを引きつらせた。
鹿の子ならば、くったく無く笑い転げたのかもしれない。
しかし、そこに居るのは鹿の子ではなかった。
完全に白菊の影と化した存在だった。
計画の失敗を悟った三人が凍り付いて、時が止まったかのように見えた時、上空から一羽の鴉が舞い降りた。
咥えた物を地面に下ろし、カァー と得意げに鳴く。
『影』がゆっくりと動き、鴉が咥えてきた赤い簪に手を伸ばした。
「……す……ず……め……」
「鴉ですから!」
図らずも、陽映と綺羅君と伊織の三人が同時に大声をあげた。
『影』が―― 鹿の子が笑った。
寿々芽が落とした簪を拾い上げて握り締め、抱きしめる。
胸に押し当てられた赤い珊瑚玉のところから呪縛が解けて、鹿の子が開放されていった。
同時に綺羅君のヘンな歌から続いていた緊張も解け、一気に穏やかな空気が流れる。
「この子の名前なの」
にっこりと笑って鴉を指差す鹿の子の顔を、陽映が覗きこむように見た。
周囲の穏やかさにそぐわぬ真剣な眼差しを注ぐ。
そして、正面から鹿の子を見据え、静かに言った。
「そなたは、誰だ」
伊織が息を呑んだ。
綺羅君は、面白そうに目を見張った。
そして、鹿の子は凍りついた。




