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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第四章 ないしょ話は牛車の中で
39/69


「白菊やー ああ 白菊や 白菊や 

もっと(いじ)めて 縛ってぶって あは~~ん 字余り」


「わざわざ…… 字余り……。

うむむ、『あは~~ん』を、どうしても入れなくては駄目なのでしょうか」

伊織が隣りで真剣に指を折り、字数を数える。


陽映は思わず爆笑したが、『姫』は爆発寸前だった。

これは、どう考えても大失敗だ。

乙女が笑えるネタではない。およそ限度を超えている。

やはり人選を間違えたというしかない。

笑えない。


『姫』は―― 鹿の子は、いや、白菊の『影』は、こめかみを引きつらせた。


鹿の子ならば、くったく無く笑い転げたのかもしれない。

しかし、そこに居るのは鹿の子ではなかった。

完全に白菊の影と化した存在だった。


計画の失敗を悟った三人が凍り付いて、時が止まったかのように見えた時、上空から一羽の鴉が舞い降りた。

咥えた物を地面に下ろし、カァー と得意げに鳴く。


『影』がゆっくりと動き、鴉が咥えてきた赤いかんざしに手を伸ばした。

「……す……ず……め……」


「鴉ですから!」

(はか)らずも、陽映と綺羅君と伊織の三人が同時に大声をあげた。


『影』が―― 鹿の子が笑った。

寿々芽が落とした簪を拾い上げて握り締め、抱きしめる。

胸に押し当てられた赤い珊瑚玉のところから呪縛が解けて、鹿の子が開放されていった。

同時に綺羅君のヘンな歌から続いていた緊張も解け、一気に穏やかな空気が流れる。


「この子の名前なの」


にっこりと笑って鴉を指差す鹿の子の顔を、陽映が覗きこむように見た。

周囲の穏やかさにそぐわぬ真剣な眼差しを注ぐ。


そして、正面から鹿の子を見据え、静かに言った。

「そなたは、誰だ」


伊織が息を呑んだ。

綺羅君は、面白そうに目を見張った。


そして、鹿の子は凍りついた。



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