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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第一章 次嶺経(つぎねふ)は山また山
2/69

「うわあ、広いなあ。こんなに開けた場所とは思わなかった」

鹿の子と隼人が、眼下の家々と田畑に目を見張る。


無理も無い。

山また山を越えてやってきた山奥に平地が広がっているとは、若い二人の思いもよらぬことだった。

狭い山道を歩いてきたばかりの目には、実際よりもさらに広く感じられる。


それまで、一座は都に続く街道沿いか、港町を移動してきた。

人と物の流れに乗って、流れ歩いてきたのだ。

若い二人が深い山を越えたのは初めてだった。


古くからこの地に住む鳥座(とぐら)家の領地で、周囲の山地を含めてもさほど大家というわけではないが、山道の街道を抜け出るところには大きな集落もあった。


見渡せば、構えの大きな家々もある。

それぞれの家の周りが庭よりも畑になっていることが多いのが、さすがに田舎びた風景になっていたが、遥かに点在する村々の規模も人の数も、そこそこありそうだから、軽業一座にとっては良い商売になるはずだ。


一段と小高くなったところに、高い土塀に囲まれて立派な構えの屋敷が見える。

屋敷というよりも城砦(しろとりで) といったほうがよさそうな、広大な造りの建物が夕陽に染まって、一際真っ赤に照り映えていた。


「どうした、鹿の子」

藤伍が、急におとなしくなった娘をいぶかしげに見る。


「なんか、あの屋敷は好きじゃない」

「そうか。じゃあ近づかないことにしよう。大丈夫だ、舞台は村外れにある」

「舞台があるの?」

都でもなければ、見世物をかけられる舞台があるのは非常に珍しい。

町や村の神楽殿(かぐらでん) を借りられることもあるが、田舎では、空き地か大道で披露するのが普通だ。

見物料を集めるのも、鹿の子と隼人の仕事になる。


「ああ、立派なのがあるさ。仕切ってくれる勧進元(かんじんもと) もあるから、ここは楽だ」

「親方は、以前にも来なすったのかい」

紫苑が聞く。


「ああ、十年近く……いや、九年前だ」

「やけにきっちり覚えてるんだね」


「そりゃそうさ。ここの帰りに、山道で鹿の子を拾ったんだからね。そうだったよね、おまえさん」

藤伍の女房、都茱(つぐみ) が感慨深そうに振り返った。


「へえ、じゃあ、この辺が鹿の子の故郷なんだね。懐かしいかい」

紫苑の何気ない言葉に、鹿の子は困ったように首を振る。


「そりゃあ物覚えのいいことだ。鹿の子の年恰好からすりゃあ、七つ八つには なっていただろうに、何にも覚えてないのかい」


それを聞いて、藤伍と都茱が顔を見合わせる。


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