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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第二章 お客様は紅王丸
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その沈黙は、長かったのか短かったのか。

研ぎ澄まされたやいばのような時の流れがあり、答えが出た。


「よかろう」


「姫様!」

土岐野が悲鳴のような声をあげた。

『お屋形様』ではなくなっている。


「土岐野、御簾を上げよ」

土岐野を無視して暗い声が響いた。

なおも躊躇いを見せていた土岐野が、鹿の子を睨みつけて立ち上がった。


御簾をゆっくりと巻き上げてゆく。

隅に転がった脇息が見え、白菊の姿が徐々に現われた。

鹿の子は言葉を失った。


美しい着物を纏って端然と座る白菊姫の左半分の顔が、赤黒くただれていた。

袖口から覗く左手も、同じ色をしている。

火傷の跡だ。

それよりも驚いたのは、きれいな右半分の顔が、まさに鹿の子と生き写しで、鏡を見ているようだったことだ。


初めての日に『気味が悪い』と言った白菊姫の言葉が、今になってよく分かる。

あまりに似ていて気味が悪かった。


白菊は唇の端を上げて不気味な笑みをつくると、挑むように鹿の子を見据えた。

「しばらくの間御簾の内に(はべ)って、よく見ているがよい。

そうじゃな、十日やろう。

十日のうちに、見事わらわの影になって見せよ」


土岐野が あわてている。

「と、十日間ですか。毎日でしょうか。三日おきでは……」

「命令じゃ。端に几帳を立てて控えておれば、下座から見えまい。

起きてから寝るまで、存分に見定めるが良い。

土岐野はもうよい。以前の役目に戻れ。影の世話は五葉に任せよ」


土岐野が心配そうに鹿の子を見やったが、黙って平伏した。


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