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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第一章 次嶺経(つぎねふ)は山また山
1/69

小説家になろうで四作品目になります。

他の作品も、どうぞよろしくお願いします。

感想をいただけたら、とってもうれしいです。


木の間隠れの峠道に、荷車を引いて通る一団があった。

総勢八人。


二人の男女が道を確かめるように先を行き、その後を、きわだった大男がかじ棒を引いて進み、四人の男女が荷車のまわりを手伝って勾配こうばいを登っていく。

後から一人遅れて、太った腹を揺らしながら、肌寒い空気をかき乱すかのように汗をふきふき追いかける男もいる。


ふいに道は下りに入った。

横に付いていた娘が、ひょいと荷車に飛び乗る。

髪を高めにくくり、細身のはかまのすそを絞って裁着(たっつ)けにしている。

女にしては身軽すぎる身なりだ。


「こら、鹿のかのこ。またおまえは」

荷車の後ろを押していた髭面ひげづらの男が叱ったが、声はやれやれとでも言うように笑っている。

男の顔は真っ黒な髭におおわれて年齢を判断するには難しく、いかつい雰囲気が、一見してたくましそうな印象だが、よくよく見れば、もう少し食べたほうが良いんじゃないかと思うほどにやせぎすである。


「へへーん、らくちん、らくちん」

鹿の子と呼ばれた娘は、気にもしない。


「しょうがない子だねえ。下りのほうが後から足にくるんだよ。ねえ、ガジ」

やはり後ろを押していた女も、鹿の子を叱りついでに大男に話しかけるが、かじ棒を持つガジという大男は気にする風もなく笑った。

「確かに紫苑(しおん)の言うとおりだが、細っこい娘一人くらい屁でもないさ」


それを聞いて、紫苑もふんとばかりに荷車から手を放す。

まだ二十歳そこそこの若い女で、眉ばかりはきれいな三日月形に整えられているが、目は、切れ長というにはお世辞にも細すぎた。


「屁だってさ。やっぱり鹿の子は屁なのか」

横を歩く男の子が喜んで まぜっかえす。

声変わりが始まったのかガラガラ声だが、言うことは全くの子どもだ。


「屁でもないって言ったんだよ。隼人(はやと)は頭ばかりか耳まで悪いらしい」

鹿の子に言い返されて、チェッと舌打ちながら蹴った小石が、思わぬ高みまで はじけ飛んだ。

小石は弧を描いて、芽吹き始めた幼い緑の茂みを打ち揺らし、その音に驚いたのか、雑木の枝にとまっていたからすが飛び立った。


「あっ、ねえ、見た見た? 今の鴉、赤いものが付いていた。血かなあ、怪我してるのかなあ」

騒ぎ立てる鹿の子に、隼人はぶぜんとして言い返す。

「俺はぶつけてないぞ」

「分かってるわよ。隼人の(つぶて)じゃ雀も落せない」

「そんなこと無いぞ。ちゃんと狙って手を使って打てば、雀くらいは一発だ」

抗議する声が、つらそうにひっくり返る。


「あれはけがじゃなさそうだ。赤いものでもくっついているんだろうよ」

ふいに声をあげたのは、先頭を歩いている男。

四十ほどの年回りに見える。

がっしりとした背格好の落ち着いた様子は、その中で一番頼りになりそうだ。

軽業かるわざ一座の座長、藤伍(とうご)だ。


「みんな、もうじき次嶺経(つぎねふ)(さと)だ。日暮れまでには着かないとな。急ぐぞ。日が暮れたらやっかいだ」


一行の足取りが、こころもち速くなった。

山の奥にも春はきちんとやって来たようだ。

やわらかい日差しを受けて枝を伸ばした雑木に、きらきらと鮮やかな緑が揺れていた。


「うわあ、広いなあ。こんなに開けた場所とは思わなかった」

鹿の子と隼人が、眼下の家々と田畑に目を見張る。


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