第5話 小さな望みを抱く戦士カルム
一人の男がベルズ達のいる島へと向かっていた。
男の名前はカルム。筋骨隆々な肉体を軽装の皮鎧で包み、2メートルはあるだろうサイズの一振りの剣を腰に提げている、一目で戦士と分かる装いだ。
紅色の短髪とそのいかつい顔付き、そして身体中の古傷を見れば、彼がただの戦士ではなく歴戦の者だと気が付くだろう。
そんな彼カルムは情報屋に高い金を払いベルズ達が舟に乗って海へ出たと言う情報を聞き、自身もまた小さな小舟を買って海へと向かったのだ。
目的は当然、カトレアの両親が出すと言う賞金。ついでに誘拐された少女を救出した勇敢な戦士と言う名声。
金に目が眩みこんな依頼を受けてしまったが内心、失敗だったかなあ、とカルムは後悔し始めている。
戦士ギルドに所属するカルムだが、毎日が激戦の日々と言う訳ではない。
ギルドで毎日のように受けられる依頼は殆どが危険度の低い物で、当然報酬もその程度だ。
邪魔な草木を刈ったり、獣の子供を民家から追い払ったり程度の依頼では武器防具の維持修理費と生活費とで殆どが持って行かれ、自由にできる残金は雀の涙程度。
たまにやってくる凶暴な魔獣討伐のような依頼となれば相応の額が期待できるが、危険な相手ならばこちらも相応に準備が必要であり、有用な道具を買い揃えるためにこれまた金がかかる。
それでも少なくは無い報酬が支払われるが、貯金しようと思うも戦いの後の興奮で気が強くなっているのか、ついつい賭博に費やしてしまい、残るのは後悔と運良く財布に残った数枚の銅貨。
戦士としての経験も大分積んで、危険な依頼を率先して受けているはずなのにこの有様では、目標を達成できるのはいつになる事やら。
そう思っていた矢先にどこぞの貴族様の娘が誘拐されたいくらでも出すから助けてくれ、と言う不特定の多数へ向けた依頼が。
つい、後先考えず受領してしまったが、考えれば考えるほど失敗だった。
誘拐犯らしき人物が舟で海へ出たと言う事で意気揚々と舟を買ったはいいが、冷静になって考えれば海へ出た、と言うだけの情報でどうやって誘拐犯を探すつもりだったのか。
しかもそんな下らない情報と明らかに使い古しのボロ舟を高い金で買ってしまったと言うのも非常によろしくない。わずかばかりではあるが目標の為に必死になって貯めた金をほとんど使い切ってしまったのだ。
……この仕事を終えたら、出来るだけ速い内に金勘定に強い仲間を見つけよう。カルムはそう心に強く誓った。
そんな誓いを立てたカルムの目の前に、小さな島が見えてきた。砂浜付近の船着き場らしき場所に一隻、小さな舟が泊めてある。
もしや、と思いカルムもその付近に舟を泊め、砂浜を上がって行く。
「っ!、これは……」
辺り一面、人間の血と肉、そして腐臭が埋め尽くしている。カルムは思わず手で口を塞ぐ。
人の死自体は見慣れた光景だが、だからと言って気分の良い物では決して無い。
それにしてもこの数。海賊か海の魔獣に襲われたものの命からがら逃げ延び、無念にもここで力尽きたと言う事にしても数が多すぎる。
当たりかもしれない。そう考え、カルムは剣の柄を握り締めながら慎重に進む。島の中央の方に見える、大きな家へと。
この悲惨な光景を作り出したのが件の誘拐犯だとすると少女の命も危ういかもしれない。
誘拐された少女を無事助け出せと言うのが依頼の一番重要な部分だろう。これを達成できなければ依頼主はさぞ落胆するであろうし、最悪報酬の話も消えてしまうかもしれない。
急がなくては。報酬、もとい、少女が誰の手も届かぬ場所へ行ってしまう前に。