第4話 迫る刺客
娘がいなくなった。
その事にカトレアの両親が気付いたのは日が昇り出してからの事。
家族揃って朝食を摂るのがカトレア一家のいつもの朝なのだが今日は珍しくカトレアが食卓へとやって来ない。
普段ならば誰よりも先に起きて私達の分も食器の準備をしてくれていると言うのに、どういうわけかいつまでたっても起きて来る気配が無い。
不審に思った両親がカトレアの部屋へと向かうと、そこには血まみれとなった部屋と元が何だったのかもわからない、いや、解りたくない肉塊と、外側から突き破られた窓。
元は人であったに違いないその肉を見て、二人は深く絶望した。ああ、あの優しく美しく清らかだった私達の娘がこんな無残な姿になってしまったのか、と。
涙を流し、娘を失った事を嘆く二人のもとへ思いもよらぬ知らせが届く。
我が家の敷地内で野宿していた浮浪者を警備の者が発見し追い出そうとした時に、血に塗れた長髪の男が美しい女を抱きかかえ走り去っていったのを目撃したとの情報を聞き出した。
それはきっと、カトレアに違いない。確証は無かったが二人はそう信じる。娘はその男に連れ去られたのだと。
二人は世界中の戦士、魔術師、勇者、暗殺者、その他様々な腕利きの賞金稼ぎ達に向けて娘の救出を依頼する。
金ならいくらでも出せる、どうか娘を無事に助け出して欲しい。そして、娘を連れ去った男の息の根を止めてくれ、と。
-
「わあ、随分と大きいのですね」
ベルズの家の、人が通るためだけにしては無駄に大きすぎる両開きの扉の前までやって来て、それを見上げながらカトレアが呟く。
ベルズの住む家は全三階建てになっていて、それがロの字の形となり、中央に庭まで付いている全面白塗りの家だ。
庭はそれなりの面積があり、それなりの広さがある。庭とは言っても植物やら花やらが植えてある訳では無いので殺風景なのだが。
子供が走り回って遊ぶには申し分ない広さではある。いや、その為には庭中央に転がっている巨大な丸い石が邪魔だろうか。
「そうなのか? これくらいが普通なんじゃないのか、これで大きいならお前の家なんて城とか呼んだ方がいいと思うんだが」
言われて見れば、確かに大きいような気もしてくる。ベルズ一人で生活している分にはこの中の3、4部屋ほどあれば十分だし、鍵のかけられた部屋が多いこともあるが使った部屋よりも、まだ入った事もない部屋の方が多かったような。
ただこの家が大きいとするとカトレアの家の大きさもそれは凄い物だ。山の上半分ほどを切り取った敷地に、詰め込めるだけ家を詰め込んで一つに纏めたような大きさだった。
一家が住む家というよりも一族が住む家だ。となるとカトレアは貴族のその上、王族と言う事だろうか。
「それは言いすぎですよ。確かに私の家は大きい方ですけれども、王様とかになるともっとすごいそうです」
個人対国家のどうしようもないであろう戦いの妄想に没入しかける寸前、カトレアの否定の言葉が返ってきた。良かった、少なくとも王関係ではないらしいとわかった。
どちらにしても相手から見れば大事な大事な娘を誘拐した凶悪犯と言う所は変わらんのだろうが。
「あの家よりも凄いのか……」
「ええ、私もあまり詳しい訳ではないですが、あっ……」
詳細を話し始めようとしたカトレアが不意に崩れ落ちる。見ればカトレアの腕から血が滴り、床に血溜まりが出来上がっていた。
やはり布で強めに縛っただけではその場しのぎ程度の効果しか無かったか。
「ご、ごめんなさい、私、ちょっと……」
「謝らなくていい! ちょっとそのまま我慢してろッ! 」
すぐさまカトレアを背負い、ベルズは目の前の扉を蹴り開ける。
幸いな事にこの家には前に住んでいた人間の残していったらしい薬品類が大量に残っている。
どこに置いてるかはうろ覚えだが、かなり強力な回復薬もあったはず。このくらいの傷ならそれですぐに塞げるだろう。
だから頼むからこんな所で死んだりだけはしないでくれ。そう強く願いながらベルズは駆ける。
こんな序盤も序盤で死なれては、娘を殺されたと勘違いした貴族相手に追われ続けると言う面倒事が確定してしまう。まあ、原因自体はベルズ自信にもあると言えばあるが、そこはひとまず無視。
ともかく、そんな間抜けな展開になんてなってたまるか。そう考えながらベルズは治療薬を探して走り回った。




