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5.行動の流れ

 

「いってぇ…」


 ジトリと蓚に睨まれる。私は素知らぬ顔をしてスタスタと隣を歩いた。


「莉奈さ、俺の言葉の意味わかってないだろ」

「生憎そこまで馬鹿じゃないけど?」


 少しだけ強めに言い返せば、頭上から呆れたと言わんばかりの溜息が聞こえる。何をそんなに呆れられなくてはいけないのか。まず第一に誰が動かないと蓚が困るのか。

 そんなの、わかるわけないし、わからなくていいかな、とか思ってる。


「それじゃあ成就しないよ?」


 その言葉に反応してキッと睨むと、蓚は肩をすくめた。その表情は呆れたような、もどかしいような、解けないパズルを解いている人のような顔だった。


「別に、私が勝手に叶わない想いを抱いてるだけだし」


 思った以上に絞り出したような細い声に内心苦笑した。いや、実際に表情に出ていたのかもしれない。蓚は私の様子を見るなり、バツが悪そうな顔をしてポリポリと頬を掻いた。


「…本当、もどかしいわ」


 低く唸ったその声に、言い返すことは出来ない。


「うわぁ、すごい話しかけにくい雰囲気」


 背後から綺麗なアルトの声が聞こえて、私と蓚は同時に振り返えれば、怪訝そうな顔をする少女が立っていた。


実希みき

「ちょっと、うちの莉奈に何してくれてんの」

「俺悪いこと前提かよ」


 タン、と大きく一歩踏み出して私の隣に並ぶ。再び歩き出した所で実希が私ごしに蓚の方を向いて、口を開いた。


「やらかすのは大体蓚でしょ?

 何事も」


 実希はそのままニコリと笑う。居心地が悪そうに蓚はニヒルな笑みを浮かべた。


「へいへい。そーですね」

「蓚は何事も不器用なんだよー」


 私が追い討ちをかけるように呟けば、蓚はさらに影を濃くて、頭をガシガシと掻いた。そんな蓚を横目に、実希が何かを思い出したように蓚の方を覗き込んだ。


「そういえば、裕樹とすれ違ったんだけど」


『裕樹』という名前を聞いて私の心臓はドクンと高鳴り、蓚の表情は明るくなる。正確に言うなら、玩具を見つけたような、幼くて、悪戯な笑み。


「珍しく機嫌悪かった」

「え、裕樹、今日のタイム悪いわけじゃないよね?」


 実希の言葉に私がすぐさま反応すれば、よくお分かりで、と言わんばかりのニヤリとした笑みが返ってくる。この子怖い。

 一方、逆サイドの蓚は文字通り頭を抱えていた、けど、その口元は楽しそうに緩んでいる。


「やっべ、想像以上」

「やっぱり蓚が一枚噛んでる訳ね」


 実希はニヤリと笑ったけど、私には何故蓚が一枚噛んでることになるのかがわからないため、若干会話に置いてきぼりになった。


「面白そうだから説明プリーズ」


 実希は楽しそうに口角を上げる。私はそんな実希の様子に少しだけ嫌な予感を感じたが、それは無いものとしてスルーした。


「莉奈がさ、珍しくテントに居なかったんだよ」

「ふん」

「練習も朝のうちに同じブロックで一緒に終わらせてるし、と思って俺が探しに行ったら、なんとまぁ裕樹と仲睦まじくお話してるわけさ」

「ちょっと待って、そこから!?」


 淡々と話し始める蓚と、鼻歌を歌いそうな程に楽しげに聞き入る実希の間で私は何が出来るかって、もう恥ずか死ぬくらいしか出来ないわけで。


「2人して顔赤くしたり、百面相かよ、ってレベルで表情変えてさ」

「ちょっと待て蓚お前どこからいた」

「裕樹は莉奈の腕つかんで何かを言いかけててさ」


 私のツッコミも無視して蓚は嬉々として話し続ける。


「俺が莉奈のことを呼んだら2人とも同時に振り向くのな。あれは面白かった」

「え、なんでそこで邪魔しちゃうの?」


 実希が首をかしげる。確かにそうだ。その雰囲気を読めていたのなら、何故蓚はわざわざその雰囲気を壊す真似をしたのだろう。

 実希と、蓚は、知っている。私の気持ちを。

 だからこそ余計に謎だった。そこで割り込んだ蓚の心象が。

 2人して疑問の眼差しを向ければ、蓚は目を細めて笑う。酷く悪戯な笑顔だと思った。


「そうでもしないと面白くならねぇじゃん?」

「君もなかなかにトリッキーなことするねぇ」


 蓚の行動の意図を理解したらしく、実希は蓚に向かって苦笑いを浮かべた。蓚はそれに対してむすっとした顔を浮かべる。


「どうりで機嫌がよろしくないわけだ」

「もうなんなのお前ら怖いよ」

「何年一緒にいると思ってんの」


 私と全く同じ台詞を言い放った実希に、蓚は目を丸くして、吹き出す。先程までのムスリとした顔は面影も消えていた。


「敵わないねぇ、莉奈にも同じこと言われたわ」

「まぁ、でしょうね」


 実希は蓚に向かってべ、と舌を出した。既視感を感じるその行為を見つめる私に向き直った実希はふぅと実希は息を吐く。


「蓚がここまでしてるんだから、莉奈も動かないとダメだよ」

「…よくわかんないけど、わかった」


 首を傾げた所で、腕時計が目に入る。

 時間は、集合時間一分前を指していた。


「とりあえず今わかるのは、遅刻寸前ってことや」


 その私の言葉をキッカケに陸上部3人が猛ダッシュしたのは言うまでもない。



行動は計画的に。

5分前行動を。


こんにちは、花紫です。

今回は幼馴染組のわちゃわちゃとなりました。実希さん登場。結構ハッキリと物事をいう性格です。蓚は結構不器用気味。


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