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1.欲しい

 パン、と雷管の音が鳴り響く。

 刹那飛び出す8人の選手。走幅跳の補助員で片付けをしていたわたしの前を一瞬で通り過ぎてゆく。

 何者も引き付けずグングンと前に進むあいつの走りに魅せられてもう2年近く経つ。種目とかそんなのは関係ないと言わんばかりに魅せつける走りを見るのはこれで最後だと思うと、胸が締め付けられた。


 中学3年生。7月。最後の公式試合。

 私が見る最後の最後まであいつの走りは綺麗だった。




「お疲れ。んで地方大会出場おめでとさん」

莉奈りなか。ありがと」



 競技場のスタンドに1人で座る男子を見つけて、そっととなりに座る。冷えたスポーツドリンクを差し出せば、隣で喉を鳴らして飲む少年。ふわふわとした癖毛の髪が夏風に吹かれて、揺れていた。


「…見てた?」

「私が裕樹ゆうきの走りを見なかったことがあった?」

「うわー、だよなぁー」


 そう言って裕樹は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。多分、納得のいく走りではなかったから、そうやって気まずそうにしているんだろう。

 だから、1人でスタンドに座っていたんだろう。

 そっとしておくべきなのはわかっていた。そして、それでも私が構ってしまうことも。でも私には何も言えないから、ただそっと、隣にいるだけ。意味あるのか、とかそんな事言わない。

 十数分かしたあたりに、私はふと口を開く。


「私にとっては誰よりも綺麗な走りだったよ」

「んぐッ!?」


 このくらいしか言えなくて、言った後に恥ずかしくなって顔を背ける。隣で噎せる音が聞こえたけど私は悪くない。こういうのに免疫がない裕樹が悪い。

 うー、だの、あー、だの隣でボヤいているけど、私はなんら気にしてないふりを貫く。火照る頬を沈めるように、自分のスポドリに口をつけて一気に飲み干せば、だいぶぬるくなったそれは妙に甘ったるく感じて溜息を吐いた。

 カタリ、と隣で動く気配がして横を向けばどこか吹っ切れた顔をして伸びをする裕樹がいた。


「ありがとーな」


 そう言ってぽんぽんと私の頭を撫でた後、すぐにバッとその手を引いて真っ赤になる。無意識でそういう事をするくせに、免疫ないってどういう事や。

 いや、私も充分に真っ赤なんだけどね!?


「ん、いや、元気になったなら良かったよ」


 誤魔化すようにニコリと笑えば、裕樹もヘラリと笑う。色素薄目の茶色い瞳が綺麗に細められて、なんて言うんだろう、とにかく可愛かった。

 裕樹はすぐに立ち上がり、スポドリを飲み干す。

 青春ドラマのワンシーンよろしく、真夏の太陽に向かって顔を向け、彼は小さく呟いた。


「あーーーー、彼女欲しい」

「え、まさかの?」


 唐突すぎるその言葉に、私は目を丸くすることしか出来なかった。とうとう暑さにやられたか、こいつ。


「いやさ!?公式大会も一段落ついたじゃん?」

「君まだ地方大会残っとるやん」

「一度くらいモテ期なるものがきてもいいと思うんだよ!」

「私の話丸無視!?」


 さっきまでのシリアスは何処かに消えて、ここにはもうただの中3男子しか存在しなかった。

 だってさーとかブツブツ小言を漏らしながら再び隣に座る裕樹を横目に私は深く溜息を吐く。



 なんで気づかないかな。

 約2年ほど君に片想いしてる人がここにいるって言うのにさ。

 鈍感にも程があるでしょう?



シリアスクラッシャー。

初めまして、花紫と申します\(°∀° )/

これは以前別アカウントで掲載していたもののリメイクとなります。大幅に変更される点もあるので新しくしちゃえっ☆ミ(ゞω・)ってノリで作りました。

まだまだ至らない所はありますが、どうか長い目で見ていただけると嬉しいです。

ここまで読んでいただきありがとうございましたっ!!!!

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