困った時の協会頼み
もしかしたら帰るヒントが見つかるかもしれないと思って行った異世界人保護協会だったが、特にこれといった収穫はなかった。
異世界人保護協会はその名の通り異世界人を保護することが目的の組織である。
私の場合は少し違ったが、この世界で発見された異世界人はまずここに連れてこられ、常駐する魔導師によってラウレン語を話せるよう魔法をかけられる。
意思の疎通が可能となったら異世界人登録の書類に必要事項を記入し、相談員が面談を行い、その異世界人が今どのような状況に置かれているかを説明、今後の身の振り方について話し合う。場合によっては住む場所や仕事、子どもなら引き取り先を紹介することもある。協会は異世界人のための役所であり、ハローワークであり、不動産業者でもあるのだ。
私も異世界人登録と面談を済ませた。先生の魔法は効果てきめんで、私はラウレン語の読み書きもできるようになっており、異世界人登録はスムーズに進んだ。その後の面談の中で相談員の男が話した異世界に関する情報は、読者の皆様にとっても有益かと思われるので記しておこう。
ラウレンには年間数百人、多いときには千人を越える異世界人が飛ばされてくる。発見される場所は様々であり、ラウレン全土にわたる。そのためラウレン中に異世界人保護協会の支所が置かれている。田舎の方では地元の名士が協会の代わりを務めることもある。
情報はあまりないが、他国にも同じくらいの異世界人が飛ばされているだろう、ということである。
飛ばされてきた異世界人の出身世界は今のところ七つであり、ラウレン人はそれらを第一~第七世界と呼び、ジレア・ミナス自身を第八世界と定義している。ちなみに地球は第六世界である。
異世界人が流れ込んできていることが確認されているのは八つの世界の中でジレア・ミナスだけであることから、第八世界がその他の世界の受け皿となっているとラウレン人は考えている。魔法がジレア・ミナスにしか存在しないのも、その他の世界から魔力が流れ込んできているためではないかと考えられている。
また、ジレア・ミナスの異世界研究の権威である一族、グランディオドール家は、八つの世界はもともと一つだったがあるとき何らかの事情、例えば歴史的な大事件などによって分裂した(戦争でA国が勝った世界とB国が勝った世界、隕石が落ちた世界と落ちなかった世界など)という説、通称『分岐論』を唱えている。地球流の言い方をすれば、パラレル・ワールドというやつである。各世界の歴史を大きく遡ると偶然の一致というには似すぎた点があることがそれを裏付けている、というのが一族の言い分であるが、私にはトンデモ理論に聞こえたし、実際それを信じる者は多くないそうだ。
相談員の男性が面白がってこういった与太話(これがまったくのでたらめかどうかは今はあえてここには記さないことにする、物事には順序というものがあるのだ)をたくさんしてくれたばかりで、もとの世界に帰る手がかりは掴めなかったが、とりあえず今後の生活での目処はたったし、協会に行ったのは無駄ではなかった。これを読んでいる皆様はすでに協会に行かれた後で、(私がこの仕事を落とさなければこの文章は協会で配布している冊子に掲載されるはず)今さらと思われるかもしれないが、困ったことがあれば協会に相談するといい。もとの世界に戻る方法こそ知らないが、彼らは親身になって相談にのってくれる。あなたたちのよきアドバイザーとなってくれるであろう。