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運命の人  作者: まる。
第3章 噛み合わない歯車
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第9話~愛するが故に~

 ジャックは何かにとり憑かれたかの様だった。

 叶子の必死の願いも聞き入れず、ただ自分の欲望を満たす為だけにスカートの中を弄る。悲しげな表情を浮かべ、ただ黙ってジャックを見つめる叶子に、ほんの少しだけ残っていた正常な思考がジャックの頭の隅を掠めて行った。


(……僕は一体何をしているんだ? こんな事をして彼女の気持ちを取り戻せるとでも思っているのか?)


 それでも、今自分が犯している罪を止める事が出来ない。

 彼女を誰にも渡したくない。自分でも理解し難い激しい嫉妬感がジャックを苦しめた。


 今まで女性に対してこれ程までの感情を抱いた事は無かった。叶子に対する気持ちが大きすぎたせいか、ひとたび裏切りを感じた途端にそれは狂気に変わり果て、頭の中は支配欲の塊と化す。やがてそれが陵辱紛いの行為へと駆り立てた。


 彼女の唇にキスを落とす度に、彼女の肌に手を滑らすほどに――。彼女が今自分の目の前に居て自分のモノだけになろうとしている。そう思うと、自分が犯している罪が少しづつ形を消し、その内その罪そのものも跡形も無く消え去るのだと、この時のジャックはそう信じでいたのだった。


「ねぇ、貴方はこれで満足なの? ……これで誤解は解けるの?」


 黙っていた叶子が眉を顰めながらそう言うと、劣情の世界に入り込んでいたジャックが現実の世界に引き戻される様にその手の動きをピタリと止めた。


「誤解が解けたとしても、私はどうなるの? あなたに対する不信感はどうやって消すの?」

「不信、感……?」

「こんな……レイプまがいの事をして。この先貴方の事を信用していけると思う? 貴方は満足かもしれないけれど、私には不信感しか残らないよ」


 叶子のその言葉に愕然とした。

 愛し合いさえすれば今のこのもやもやとした気持ちは互いに晴れるとジャックは思っていたが、叶子はそうではないのだと知る。


「そんな、ただ僕は不安……そう、不安なだけで。君が僕の手から離れて行くんじゃないかって、そう思うと」

「こうする事で貴方のその不安が解消されるのね?」


 ジャックは黙って頷くと、叶子は諦めた様子で目を伏せた。

 そして、意を決したかのように大きな目を開くと、迷いの無い目でジャックを見つめ返した。


「……わかった。でも、これは取って頂戴。私に対する侮辱としか思えない」


 ――逃げないから。

 念を押すかのように拘束された両手首をジャックの顔の前に差し出すと、鋭い眼差しでそう言った。ジャックは「わかった」と一言だけ呟き、手首を締め付けていたネクタイをスルスルと解き始める。解放された手首を擦っている叶子を見ても傷つけてしまった事を気に掛ける様子も無く胸元へと手を伸ばす。と、身を捩ってかわされた。


「待って。……自分で、脱ぐから」


 上体を起こした叶子は、ジャックに背中を見せた。乱れていた衣服を脱ぎ捨てていく。その行為は僅かではあるがジャックへの反抗を示すと共に、“自分はただ黙って抱かれているだけの奴隷ではない、ちゃんと自分の意思で抱かれるのだ”と言う事を訴えかけているかの様に思えた。


「……」


 肌に触れているもの全てを脱ぎ捨てると、両手で腕を抱きしめるようにしてそのままベッドの上に座っている。そんな叶子の肩を抱きそっとベッドに横たわらせると、胸の上で交わった腕がゆっくりと開かれていく。

 叶子の真っ白な肌が姿を現すと、既に見たことがあると言うのについ息を呑んでしまうほど、ジャックは興奮していた。


「――? ……っ」


 ふと、叶子の手首にうっ血した痕を見つけ、ジャックはハッと我に返る。うっ血した所から視線を逸らせないでいると、組み伏せた叶子の視線を感じた。その叶子へ視線を下ろした時、一際冷静な顔でただ自分を眺めているだけの叶子に酷く動揺した。

 その表情から、そうよ、貴方がやったのよと言われている様で、一気に罪悪感に苛まれた。


(僕は何て事を……)


 後悔しても、もう遅かった。


「カナ、僕は君を愛している。ただそれだけなんだ」


 ジャックの目をじっと見つめたまま、叶子は黙ってコクリと頷いた。


「今から僕がする事を許して欲しい。早くこの不安から解放されたいんだ」


 うっ血した手首に口づけると、そのまま彼女に溺れていった。




「……っ、」


 叶子の上でジャックが上下する。

 苦しそうに顔を歪め、何かに耐え忍んでいるような叶子を見るのが辛いのか、首筋を(なぶ)る振りをしてそんな叶子を見ないように彼女の顔の横で自身の顔を埋めていた。


「カナ、カナ。……何処にも行かないで」


 その呼びかけに小さく頷く彼女がその時何を考えていたのかなど、全く理解しようとはしなかった。ただ自分の中に渦巻く嫌な感情を落ち着かせたいが為に、壊してしまうんじゃないかと思うほどに、無我夢中で何度も彼女を抱いた。






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