第14話~余韻~
肩が冷えるのを感じ、温もりを得るために暖かい毛布の中に潜り込んだ。ふわっと持ち上がった毛布の香りがいつもと違う事に気付き、ゆっくりとその瞼を開ける。二人で寝るには手狭なシングルベッドから落ちてしまわないよう彼女の背中を抱き、いつの間にか一緒に寝てしまっていた。
「――」
華奢な肩を包み込むように抱き締めると、長くて艶のある髪に鼻先を埋める。鼻孔をくすぐるその髪についた匂いが自分と同じ匂いだと思うと、ほんの少しの照れが生まれた。
あの時、彼女がドアを開けてくれなければ、今この瞬間が訪れることはなかっただろう。昨夜の事を振り返ると叶子へのいとおしさがぶり返し、まだ深い眠りに落ちている彼女をきつく抱き締めては自分の腕の中にいるのを実感していた。
全く起きる気配の無い叶子の肩も、すっかり冷え切っている。毛布を少し持ち上げ、肩にかけてあげようとしたその時、彼女の背中がチラリと見えた。
ほんの少し見えただけでわかる、白くて滑らかな肌。好奇心からもっと見てみたくなったジャックは、毛布をかけてあげるどころかそっと腰まで下ろしてしまった。
彼女の長い髪を片側にまとめると、首筋から腰までの曲線をじっと見つめ、ほうっと溜め息を吐いた。
(参ったな……。昨夜は夢中で気付かなかったけど、背中ですらこんなに美しいなんて)
叶子はジャックが凝視していることに当然気付くはずもなく、すやすやと穏やかな寝息をたてている。肩と胸部が小さく上下する度くびれた腰を強調し、扇情的な姿を魅せつけられた。
「……っ」
喉をゴクリと鳴らすと、そのまま傍らに眠る叶子の背中に吸い込まれて行った。
華奢な肩を撫でさすりながら、白いうなじににそっと口づける。先程までの行為の激しさを物語るように、舌先には少し汗の味が感じられた。
自分には無い独特な女の匂いにゾクゾク感が止まらない。全く起きる気配がないのをいい事にジャックは少しづつその位置をずらしていった。
背中全体をジャックの唇が這い始める。肩を撫でていた彼の大きな掌は二の腕を通り、手の甲へと滑り落ちては戻るを幾度と無く繰り返している。次第に更なる刺激を求めだしたその掌は位置を変え、叶子の細い腰元から太腿へと移った。
起きたら何て言われるだろうかと思う反面、起きて欲しいという思いが交錯しジャックの頭を混乱させる。矛盾する気持ちとは裏腹に、その行為を終わらせると言う選択肢は毛頭無かった。
「……ん、――」
彼女のぷっくりとした紅い唇が薄く開いたかと思うと、くぐもった声が漏れ落ちる。少し意識が戻ったのか、叶子は腕を背中側に回すと自身の背中に感じる感触の原因を探りだしている様だった。ジャックはすかさずその手を捕まえると、苦しくないように叶子の胸の前へと移動させる。そして、そのままその細い肩に吸い付いた。
「――んんっ、ぁ、……」
大きく深呼吸するかのようにして甘い息を紡ぎ始める。叶子は背中を向けたまま反り返り、添えられていた筈のジャックの手は振り解かれてしまう。そして自由になったその手を今度は彼の首に回し、グッと引き寄せるとそのまま唇を合わせた。
たったそれだけの行為だと言うのに、ジャックの身体が再び疼き始める。熱を冷まさなければと思いつつも、叶子の方から舌を絡められると、どうにもコントロールが出来なくなっていた。
だが、もう一度、と期待したジャックの期待も虚しく、目を瞑ったままの叶子の舌の動きは次第に緩慢になっていった。そして再び枕に頭を埋め、また、すやすやと眠りについてしまった。
「あっ、――寝ちゃった?」
思わず声に出てしまった。
彼女の可愛い寝顔を見ていると、無理矢理起こすのも可愛そうだ。がっかりした表情を浮かべつつも、仕方ないとばかりにキスの悪戯を終えた。
「んん……」
叶子は寝返りをうち、ジャックの方へと向き直る。丸くなって寝息を立てている姿を見ているだけで、上がりだした熱が徐々に落ち着きを取り戻していくのがわかった。
「ふふ。僕の可愛い人」
そう言って、鼻先をちょんっと指でつつくと、かな子を毛布で包み込んで胸元に引き寄せる。彼女の温もりと、一つになれた余韻に浸りながらジャックも静かに目を閉じた。