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運命の人  作者: まる。
第2章 恋人達の戯れ
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第12話~愛のあるキス~

 

「うーんっ! ……っ、ふぅー」


 デッキに出て大きく深呼吸すると、朝露に濡れた草木の香りが充満していてとても気分が癒される。小鳥の囀る声が、今まさに大自然の中にいるのだと叶子は肌で感じていた。


 ピーッピーという機械的な音が部屋の中から聞こえ、それによってご飯が炊けたのだと知る。後ろを振り返ってみれば、部屋の中にはボサボサ頭のジャックがソファーで足を組んで座っている。ふてくされた顔で新聞を読んでいるのを見ると、つい先程のやり取りを思い出したのかプッと吹き出した。

 部屋の中に入り、彼が読んでいる新聞は上下さかさまになっているのがわかった。叶子はそれを取り上げるとくるりと上下を返し、もう一度彼の手に新聞を戻す。ムッとした顔で見上げるジャックの視線に対し、叶子は余裕の笑みを浮かべた。


「朝食の準備するね」

「……お願いします」


 不機嫌そうに口を尖らせながら彼はボソッと呟くと、再び新聞に目を向けた。



 ◇◆◇


 ジャックより先に目覚めた叶子がキッチンで朝食の準備をしていると、ドタドタドタとまるで転げ落ちるかの様な勢いで階段を駆け降りて来る音が聞こえた。リビングの扉が勢い良く開いたと同時に血相を変えたジャックが部屋の中をぐるりと見回し、すぐに叶子を見つけた。


「あ、おはよう。朝は和食でも――」

「カナ! どうして起こしてくれなかったの!?」


 叶子が話し終わるのを待たずしてジャックが言葉を被せる。そんな彼の形相は、まさに顔面蒼白とももうこの世の終りだとも言えそうな顔をしていた。


「え? あんまり気持ち良さそうにすやすやと寝ていたから、起こすの悪いなと思って。朝食の準備が出来たら起こせばいいかな、と」


 本当はそういう事を聞きたかったのでは無いと言う事くらい、流石の叶子でも大方予想はついていた。あえて的外れな返事をすると、ほんのり頬を赤らめながらジャックが慌てて否定した。


「そ、そうじゃなくて!! ……き、昨日の晩の事だよっ」


 あまりに真剣な表情の彼がおかしくてつい吹き出してしまう。そんな叶子をジャックは気に食わないのか、片方の眉がクイッと上がった。


「ご、ごめんなさい。……えと、さっきと同じよ。凄く気持ち良さそうに眠ってたから起こすのが可愛そうだなって思って」

「……うあああぁぁー! 僕はなんで寝てしまったんだー」

「疲れてたんだから仕方ないよ」


 ジャックはキッチンのカウンターに両肘をつき、頭を抱え込みながら自分が犯してしまった失態を恥じている。そんなジャックとは相反し、叶子は笑いをこらえるのに必死だった。


「――。……? きゃっ!」


 ガバッと勢い良くジャックが上体を起こしたと思うと、すぐに叶子の腰に両手を回してグッと引き寄せた。バランスを崩した叶子はあっさりジャックの胸板に顔が埋まる。


「今から……続きを……」


 先程までの焦った様子だったのが打って変わり、今は甘顔に変化している。胸の中で自分を見上げながら目を丸くしている叶子に対してそう言うと、叶子の首筋に顔を近づけてきた。


「え? あ、や……っ」


 幾らなんでもこんな朝っぱらからコトを致すなんてご先祖様達に顔向け出来ない。叶子は慌てて身体を反らすと両手でジャックの胸を押し返した。


「ち、ちょっと待って、こんな朝早くから昨夜(きのう)の続きだなんて……」


 火照りそうになった頬を隠すようにして顔を俯かせると、下から覗き込むようにしてジャックの顔が現れた。目と鼻の先に顔を近づけてきたジャックの目はどこか血走っていて、必死な感じが伝わって来る。


「じゃあ、夜ならいいの?」

「夜って。……今日はもう帰らなきゃ」

「もう一泊する!」


 まるで小さな子供が駄々をこね、お母さんを困らせているかの様だ。途中で寝てしまったのがよっぽど悔しかったのか、あんなに仕事に一途な彼がそれをほっぽってでも何とかして続きがしたいのだと言った。


「し、仕事があるでしょ?」


 笑いをこらえている叶子とは対照的に、ジャックは悔しそうな顔で肩を落とし頭を項垂れている。そんな彼が可愛くて、いとおしくて、つい触れたくなったる。叶子はジャックの頬にそっと手をあてると、触れるだけの短いキスをした。


「じゃあ、はじめからやり直しね」

「え?」

「おはよう」


 そう言って叶子がニッコリと微笑むと、無茶な事を言って彼女を困らせてしまった事に気付いたのか、ジャックは少し照れくさそうにしながら「おはよう……」と、やっと落ち着いて朝の挨拶をした。


「はい、じゃあ座って待ってて?」

「はーい」


 上手くまとめられた感が否めない。

 今のやりとりだけを切り取って見ると、一体どっちが年上なのかと思う程立場が逆転している。その事にジャックは気付いているのかいないのか、まだ不満そうな面持ちでソファーにドサッと腰を下ろした。






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