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運命の人  作者: まる。
第7章 確執
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第8話~不可解な事~

「お前、ここで何やってんだ?」

「ブ、ブランドンさんこそ、こんな所で何をっ?」

「俺は明日ここでうちのパーティーがあるから、その下見に来ただけだ」


 流石は一流企業。こんなに広い宴会場の全スパンを使ってパーティーをするなんて、きっとここでも上得意なんだろうなと今更ながら関心する。全スタッフが作業する手を止めてまで挨拶をしたのも頷けると、一人納得した。


「……。――な!? ちょっ!」


 ジャケットの襟元を掴まれたまま、健人の後ろから引きずり出された。

 よりにもよって、今、一番会いたくなかった人に偶然とは言え会ってしまった。宴会予約の女性は一体何事かと言わんばかりの表情を浮かべながら隣で立ちほうけているし、健人だっていきなり私が首を掴まれたのを見れば慌てるだろう……と、思ったが、慌てるどころかバツが悪そうな表情(かお)をしていた。


「??」

「健人。何でコイツとお前が一緒にいるか説明しろ」

「え? 健人、ブランドンさん知ってるの?」


 掴まれた首をやっとの事で払い除け、襟元を正しながら健人の顔を覗き込む。今度は健人から冷たい眼差しを向けられてしまった。


「僕、JJエンターテイメントさんの担当なんですが。……野嶋マネージャー」


 クライアントの前でとぼけた事を言う叶子に、健人は流石にマズいと思ったのだろう。ブランドンに聞かれないように背を向けながら小さな声でそう言った。


「あ! ああ、そ、そうね……ははは」


 普段、“マネージャー”はおろか苗字ですら呼ばれたことも無いのに、本気で呆れたのか嫌味満載で返される。口元はクッと上げて微笑んでいるようにみせてはいるが、目が全然笑っていなかった。

 百歩譲って健人が担当じゃなかったとしても、これほどジャックと瓜二つなブランドンを見て、この勘のいい健人が気付かないとは思えない。あの会社の社長はジャックである印象が強いとは言え、つくづく自分はボーッとしているなと実感した。


(――ん? でも変だな。ブランドンさんの言ったセリフも何かおかしい様な。まるで、私が健人と同じ職場だって知らないみたいな言い方。いや、まぁ、自分から言った事はないけど、ジャックなり、健人なり、若しくは他の社員とかからブランドンさんの耳に入っててもおかしくは無いのに……?)


 首を捻りながら健人がブランドンにどう答えるのかを黙って見ていると、当の健人は何処か諦めた様に小さく息を吐いた。


「……野嶋は弊社のマネージャーです」


 と言った後、目を見開いたブランドンが叶子に視線を移す。その隙を見て、チッ、しまったなと言わんばかりに健人は顔を歪ませた。その表情を見届けてから、叶子はブランドンの方に顔を向けた。


「んだと?」

「ッ!?」


 今度は、ブランドンから煮えたぎるような視線を浴びせられ、身体が縮み上がった。


(ええ!? 何? この二人のやりとり。もう、さっぱり意味がわかんない!)


 何がなんだかわからないと言いたげな叶子をよそに、二人は視線を合わさず何か考えている様だった。

 しばらくして、ブランドンの頭の中の整理が終わったのか、何もかも納得した様に話し始めた。


「そうか、お前もジャックの犬だったんだな」

「――っ、」


 ギリッと唇の端を噛み、健人は顔を歪ませた。


「そんな事をして一体お前に何の得があるんだ? 金か? 金で雇われたのか?」

「違います……大事な、……クライアントなんで。僕に出来る事であれば、――力、になりたいと」


 途切れ途切れに話す様が、まるで自分は納得していないと言いたげに見えた。


「へぇ? 立派なもんだな。しかし、お前の顔を見てると心からそんな風に思っている様には見えんのは何でだ?」

「――」


 当然の様に、ブランドンにもそれが伝わっていた。

 妙な緊張感が漂う中、置いてけぼりをくらっている叶子は思い切って何の話をしているのかを尋ねた。


「あ、あの、お取り込み中申し訳無いのですが、私にも簡単に事の成り行きをご説明頂けないでしょう……か?」


 そう言ったものの、すぐにそんな事を言ってしまったのを後悔した。


「――知りたいか?」


 まるで般若の様な形相のブランドンが、片側の口の端をクッと上げて睨みつけてくる。それに付け加えて、いつにも増して低い凄みのある声に背筋が凍りつきそうになっていた。


「は、はい。差し支えなければ」


 ふっと鼻で笑ったと思ったら、ブランドンは健人の肩に手をポンッと置いた。


「んじゃ、カナコは連れて行く。――いいな?」

「いや、それは、ちょっと」


 健人が慌てて拒絶する。


「や、あの、私まだ用事が終わってないので、無理です」


 そう言う叶子の言葉をものの見事に華麗にスルーして、ブランドンは更に健人に詰め寄った。


「クライアントの力になりたいんだろ?」


 ――“俺”が、お前の“今”のクライアントだ。


 ブランドンにそう言われてしまうと健人は何も言い返すことが出来ないのか、手にした自分のビジネスバッグをただぎゅっと握り締めていた。

 ブランドンは健人の肩をポンポンッと二回叩くと叶子の腕を掴み、引きずるようにして宴会場の扉へと向かい始めた。


「え? ち、ちょっ、け、健人??」

「いいから、黙って着いて来い」


 まるで誘拐されているような気分になりつつも、健人一人でちゃんと話を詰められるのだろうかと、自分の身の危険を心配するよりも健人の事を心配しながら、ブランドンと共にその場を後にした。






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